ホームレスが売る雑誌をご存知だろうか。『ビッグイシュー日本版』。毎月1日と15日に発行され、販売者登録されたホームレスが一冊300円で街頭販売する。そのうち160円は販売者の収入となる。「ホームレスの救済ではなく、自立を応援すること」、これがビッグイシューの事業目的だ。

 昨年1月の厚生労働省の調査によると、日本のホームレスは約1万6000人。単純に路上生活者の数だけを見れば、減少傾向にある。

 しかし、安定した住居を持たず、インターネットカフェや簡易宿泊所で寝泊まりしている人を含めれば、その数は把握しきれない。そう指摘するのは、有限会社ビッグイシュー日本代表を務める佐野章二氏だ。

 佐野氏は大阪の街に溢れる路上生活者の姿を目にし、問題意識を抱いていた。ホームレス問題の解決には彼らに仕事を提供することが必要だと考え、海外に知恵を求めた。そこで出会ったのが、1991年にロンドンで生まれたビッグイシューである。

 ロンドンではすでに社会的企業の先駆的モデルとして高い評価を得ていた。「この仕組みを日本でも」。佐野氏は創刊に意気込んだが、日本ではビッグイシューの事業は絶対に成功しないと言われた。

 しかし彼は真正面から反論した。「ホームレスから雑誌を買う人などいない」と批判されると、「ホームレスは命がけでビッグイ
シューという仕事を選ぶ。あなたは自分の仕事を命がけで選んでいますか」と言い放った。1年間の準備期間を経て、2003年
9月にビッグイシュー日本を設立。NPOではなく有限会社という形態を選んだのは、ホームレスの仕事を多く生み出す事業性を重視したためであった。

 こうして誕生した『ビッグイシュー日本版』のコンセプトは、「若者のオピニオン誌」。 「それまで、若者の立場から社会問題を継続的に取り上げる雑誌は存在しなかった。ないものを作らなければ意味がないと思った」と佐野氏は語る。また、若者に対し、「自分の幸せのためにも社会の影の部分に目を向けてほしい」という。

 現在、東京と大阪を中心とする全国12都道府県で、約120名のホームレスが街頭販売を行っている。

 昨年8月に販売者に登録した佐藤光雄さん。現在、赤坂サカス前で販売しており、1日に20―30冊売れるという。買いに来た人が「頑張ってね」と声をかけてくれるのが一番嬉しいそうだ。

 インタビュー後、最新号を購入すると、佐藤さんは「ありがとうございます」と言って深く頭を下げた。

 誌面の充実度に加え、販売者の温かさがこの雑誌の醍醐味であろう。是非一度、手に取ってみてほしい。

(田中詠美)