圧縮テラスマイル 
ITを駆使した農業経営で第一次産業の先端をいく株式会社テラスマイル。代表取締役の生駒祐一氏は、農業の現状と将来、そして第一次産業と大学生の関わりについてどう考えているのか。話を伺った。

同社は「次世代農業者の経営力をあげることで、地域農業の未来に貢献する」ことを理念として2014年に設立された。日本IBM、経済産業省、トーマツベンチャーサポート、ドーガンなどの支援を受けつつ、ITとデータサイエンスを用いて農家や産地の所得向上をサポートする事業を展開している。農作物や地域の特性をはじめ、農家の勘、経験といったものをデータ化し、農家に最適な経営指針を与えるのが主なサービスだ。
「農家の方が毎日出荷量などのデータを打ち込んでいくと、目標とするモデルとの差がわかる仕組みを開発した。いわば農業経営の体重計のようなイメージ」と生駒氏は説明する。

同氏によれば、農業が衰退した原因は「今までの農家は経営をあまり意識せずに生産を行ってきた」ところにあるという。これまで農家は、作物を作ったらとにかく出荷する、ということを繰り返してきた。市場に出してみなければ収益がどれほど出るのかわからない、勘と経験と度胸に頼った手法で生計を立てていたのだ。

「実際に私も3年間農業に携わってみたが、しっかり経営をすれば、利益を出し雇用を創出できることがわかった。ITというツールを使って次世代の農家に経営力をつけることで、地域経済を再生できるのではないか、というのが我々の基本構想だ」。感覚論を排し、農家が自立した経営を行うことができれば、地方の活性化につながる。

農家から消費者に農作物が届くまでのプロセスが長いことにも問題がある。現状、JAの農家から商品を出荷すると、小売店に到達するまでに4~6つの中継を経なければならない。「自分で農業経営をした際に、経営情報を小売店と繋ぎ、中間の取次を最低限にすることで売り上げを倍にすることができた。時代の流れのなかで役割を終えた中継機能があるなら、それは外していくべき」と生駒氏は語る。

しかし、作物も気候も多様で不確実性の高い農業という分野で、どのようにして事業の安定化を図るのか。その回答として同社が提示しているのが「テクノロジーキューブ(素材技術の組み合わせ)」という考え方だ。まず膨大なデータを解析、体系化し、素材集のようなものをつくる。そしてそれをクライアントや目的によって合わせて組み合わせ、分析レポートを作成する。実際の運用では、その分析結果をインプットしたITツールを用いて、経営をモニタリングし、PDCAを回していくのだ。これによって管理コストを下げることができ、農家側はデータに裏打ちされた指針を得ることができる。まさにITの強みだ。

また、地域の社会的課題についても話は及んだ。「農家の収入の問題は教育にも影響を与える。たとえば宮崎県で言えば、農家1世帯あたり子供が2、3人はいる状況。しかし、十分な収入がないために子供への教育投資が十分に行き届かないケースが多い。このままでは、将来的に高い教育を受けていない日本人が増えてしまう可能性がある」
宮崎県に限らず、他の地域でも状況は同じであるという。地域経済が潤っていなければ、高等教育を受けずに都会に出ていく若者は増える一方だ。将来的な日本の人的資源の観点からも、農家の所得をあげることは不可欠というわけである。

世界情勢を鑑みたとき、日本の農業にはどんな課題があるのか。生駒氏は「世界的な人口増によって、今まで輸入に頼ってきた品目が十分に手に入らなくなる危険がある」と前置きした上で、「生産効率を向上させ、輸入に依存している品目の生産を増やしていくべき」と述べた。

「植物工場という、廃校や工場などを再利用しつつ管理されたシステム内で農作物をつくる手法があるが、レタスなどの葉物やオランダ式農業に横並びの状態になっている。本来、国力をしっかりデータ分析した上で、それを導入すべき『輸入率が高く輸出率が低い品目』に対してあまり運用されていなかったりする。日本は大量生産をしない分、しっかりとデータに基づいて、システムや制度を最適化して、生産効率を高める必要があるだろう」
(鵜戸真菜子・和田啓佑)