新司法試験で、出題と採点を担当する考査委員を務める慶大法科大学院の植村栄治教授が、禁じられている答案練習会を開催し、採点基準の守秘義務に反するメールを送信していたことが6月22日に分かった。この件について法務省は、試験の公正さを損なう軽率な行為と指摘し、同月29日に植村教授の考査委員解任を正式に発表した。
法務省の調べによると、植村教授は、既に問題作成を終えていた今年2~3月に、7回にわたる答案練習会を開催。行政法分野の外国人退去強制処分に関する判例などを紹介し、実際の試験問題に類似した論点を説明していた。また、試験直前には「各自が試験で書いた論文を復元して送付してくれれば、採点する」との趣旨のメールを学生たちに一斉送信していた。
現在、考査委員は学者や裁判官ら計156人が任命されており、植村教授は昨年秋に任命された。各考査委員には、任命の際、公正さを疑われることのないよう、試験問題の内容や採点基準についての守秘義務が課せられている。
現在のところ、一連の問題による採点作業への影響はないとしている。法務省は、新司法試験の信頼性の損失を配慮したうえで、考査委員解任の処分を下した模様だ。また、今年度の新司法試験は慶大法科大学院の修了生271人をふくむ4607人が受験しており、答案練習会に参加した学生の有利性を証明することは困難であるとされている。
慶大広報室の発表によると、植村教授は「(練習会は)昨年も開いており、今年も学生からの要望があったので開いたが、軽率だった」とコメントしているという。
また慶大側は「慶應義塾に所属する教員の行為により、新司法試験への国民の皆様の信頼を損ねかねない事態を生じさせたことを、慶應義塾として深くお詫び申し上げます」と述べ、植村教授の考査委員解任発表を厳粛に受け止める姿勢を示した。同大学によると、植村教授の処分の可能性については8月を目途に対応していく予定で、当面の対応としては、6月25日付で植村教授の春学期の授業担当の中止と、学内における役職停止の措置を講じている。
大学内では調査委員会が設置され、事実関係の調査と検証、および再発の防止について、現在も慎重に検討を進めているという。
なお、慶大は「答案練習会は植村教授が個人的に開催したものであり、慶大法科大学院が組織的に働きかける等の関与はしていない」としている。