毎夏口ずさんでしまう歌がある。「夏が来れば思い出す…」。江間章子作詞の唱歌『夏の思い出』である

▼夏と過ごす中でよぎる記憶はたくさんあるのではないか。その中に、皆の心に刻み込まれている場面があるだろう。玉音放送を聞き、涙を拭う人々の姿である。戦後に生まれテレビで見た者でさえ、衝撃を受けたに違いない

▼「堪ヘ難キヲ堪ヘ、忍ヒ難キヲ忍ヒ」、平和の道を開く決心をした日本。戦後の苦しみは、人々の心に満ちた絶望が涙となって溢れた「終戦」の瞬間に始まっていた

▼それから4年後、相変わらず荒廃した土地で疲弊している国民に希望を与える歌をラジオで流したい、というNHKからの依頼を受けて作られたのが、『夏の思い出』である

▼歌詞には豊かな自然が描かれている。遥かに広がる尾瀬と空は、あらゆる感情や言葉を包み込み、受け止めてくれるようだ。その雄大さに魅かれて歩む足元には、水芭蕉の花が美しく咲く。小さな幸せはすぐそこに待っているかもしれない、と思える。この景色は優しいメロディと共に、人々の心にしみ通った

▼戦後70年目の夏。かつて祖国と運命を共にした一人ひとりの存在を思うことが大切になる。
(成田沙季)