インターネットの普及で、今後広告はいままでとは異なる形態を見せると言われている。実際に、雑誌の広告費をインターネットのそれが越えたように、4大メディアだけでなくインターネットから交通広告までさまざまなメディアを使った広告が求められるようになるだろう。広告業界も手段が多様化することにより、一社にまかせておけばよいという垂直統合の時代から、さまざまな専門企業を組み合わせる「水平分業」の時代に変わってきている。そのような状況の中、広告はどのような形で我々の目の前に現れるようになるのだろうか。あるいは、時代や産業構造が変わっても「変わらないもの」があるとしたら、それは何なのだろうか。


サイバーエージェントに聞く次世代の広告のかたち
サイバーエージェントassyukuサイバーエージェントは、広告代理事業からスタートし、現在はそれに加え、アメーバブログやゲームを中心としたサービスの提供など、幅広い事業を展開する会社だ。「アメブロ」と聞くとピンと来る人も多いのではないだろうか。

サイバーエージェントのインターネット広告事業は、業界ナンバーワン企業として事業拡大を進めている。特に近年成長著しいスマートフォン広告は昨年シェア率31%を達成し、スマートフォン広告事業においても、国内シェアナンバーワンだ。

「当社は、2012年頃から、新しく登場してきたスマートフォン広告にいち早く舵を切り、その後も成長を続けています」とインターネット広告事業本部スマートフォンセールス局長の松本洸介さんは語る。

スマートフォン広告には例えば、アドネットワーク広告(※)や検索連動型広告、タイアップ記事広告などがある。SNS、アプリの活用も重要になってくるという。

「サイバーエージェントは、広告代理事業を行う組織がある一方で、メディア運営を行う組織を持ち併せています。広告代理店とメディア、その両方の視点を兼ね揃えているため、打ち出せる広告の幅が広いことが強みの一つです」と松本さんは話す。

スマートフォン広告を考える上でまず注目すべきことは、利用者の接触頻度の高さである。現代社会において、人々はスマートフォンを常に携帯している。この接触頻度の高さを活かした広告戦略が進められている。例えばLINEで配信されるクーポンは、既読されると、高い確率で利用されるというデータもある。多くの人が1日に何度もメッセージを確認するからこそ活用されるのだろう。

サイバーエージェントが今後の成長を期待しているのは特に、データを活用した広告配信、動画広告だ。スマートフォン広告では、他の媒体に比べて、個人の属性に合った、1対1のアプローチが可能となる。ユーザーの性別、年齢、趣味などを考慮した広告を画面上に出すことが可能だ。配信するユーザーを事前に設定し、ターゲティング広告を配信することによってより大きな効果が期待できる。

アプリの広告もスマートフォン広告特有だ。一度ダウンロードしたアプリを、いかに飽きずに長く使ってもらうかが課題だという。その課題を解決するために、データを活用した配信などを行う。

動画広告については、主にYouTubeやニコニコ動画など、動画サイトで配信するものだが、2015年から成長の速度が速く、今後も更に伸びることを予想している。

サイバーエージェントでは昨年、「広告未来会議」が開かれた。この会議は、広告産業の未来を考え、お題に即した案をチームごとに提案する社内会議だという。「予想する未来がいざやって来た時に全力で取り組めるように、長い目で広告産業のことを考え、早くから準備を進めています。」と松本さんはサイバーエージェントの広告の未来に対する姿勢を紹介してくれた。サイバーエージェントの事業展開からも、スマートフォン広告だけでなく、動画広告やデータ配信など新たな広告が次々と生まれてきていることが分かる。更なる発展の可能性が感じられる広告事業。今後も注目する価値がある。
(濱田真優)

【用語紹介】
 アドネットワーク:広告掲載枠を持つメディアを多数集めたネットワークのこと。または、そのネットワーク内のメディアに広告を配信する手法。


電車内の広告がスマホにも? 多彩化する交通広告

春光社の望月敏弘代表取締役
春光社の望月敏弘代表取締役


普段利用する駅や電車には、至るところに交通広告が貼られている。何気なく目にする交通広告には、どのような特徴があり、工夫がなされているのだろうか。様々な交通広告を手掛ける春光社の望月敏弘代表取締役にお話を伺った。





交通広告の特徴
交通広告は認知のメディアだ。商品やブランドを知ってもらうことを最大の目的とする。また他のメディアに比べ反復効果が大きく、記憶に留まりやすい。たとえば通勤通学では、1日2回週5日、行きと帰りに同じ広告を目にすることになる。

最近は、デジタルサイネージというモニターを用いた広告媒体が多くなっている。主にテレビコマーシャル、パンフレットなどの静止画を繋げた広告を流す。またクイズや美容知識など、視聴者にしっかり読んでもらう広告もある。

交通広告の工夫
デジタルサイネージの映像は1コマ15秒単位の広告で、様々な企業のものを連続で流していく。このなかで確実に自社の広告を見てもらうためには工夫が必要だ。何カ所ものターミナル駅に同じ広告を掲示し駅同士をネットワーク化、広告の接触回数を増やすことで、通行人の無意識に働きかけ効率的な宣伝効果を期待できる。

変化する交通広告
通路に沿って並ぶデジタルサイネージ(品川駅)
通路に沿って並ぶデジタルサイネージ(品川駅)
品川駅中央改札口から新幹線のりばや港南口へ向かう自由通路には、多面的なデジタルサイネージが展開されている。同じ画を表示し、歩く動線上で見えるようにすることで、自然と目がいく工夫がなされている。

また、通行人参加型の交通広告も最近目立っている。壁に大きなビジョンを埋め込み、目の前に立った人の顔を認識し、人が立つと吹き出しが出てきたりとユーモアに富んだものがある。

このようにインパクトのある交通広告は、人々の話題に上りやすい。インターネットニュースで取り上げられたり、SNSで拡散されたりすることで、大きな宣伝効果が得られる。

交通広告のこれから
デジタルサイネージはディスプレイの大型化・薄型化、情報通信環境の整備、配信システムなどの低コスト化が進んでいる。今までほど急激ではないものの、今も新規参入企業は増え続けており市場は今後も拡大し続けると予測されている。手法に関しても、紙媒体とデジタル媒体どちらかに統一するというよりは、両者を並行して用いるのが現実的のようだ。 

また、今後はスマートフォンの位置情報を利用して、乗車中の電車広告と同じものをスマートフォンに表示するなど、技術を活かした広告が検討されている。将来的には、広告は今まで以上に多角化、多彩化していくと予想される。

東京23区はいまもなお人口が増え続けている。交通需要の高まりに比例して、交通広告の市場はより大きくなるだろう。市場の拡大と技術の進歩が進めば、交通広告は新たな形態を見せるかもしれない。
(玉田萌)


「見られる広告」の条件とは 人間の認知の仕組みにカギ
広告を目にせずに一日を過ごすことは不可能だろう。そう思えるほど私たちの社会は広告で溢れている。しかしその多くは、意識されることなく通り過ぎていく。特に多くの情報が飛び交うインターネット上では、どのような広告が見る人の心をつかむのだろうか。視覚心理学が専門の鴻巣努教授に聞いた。

そもそも視覚心理学とはどのようなものなのか。「視覚心理学は眼球運動などの生体情報を使って、人間の視覚による認識を客観的に評価する学問です」。例えば人が新聞を読むとき、その目線の動きを研究することによってどのような配置、あるいは見出しが読みやすいのかを客観的に評価することができる。

人間はものを見たとき、4段階のプロセスを経て視覚情報を処理する。例えばりんごを見せられた時、「何かある」「赤くて丸い」「りんごだ」「おいしそうだ」という段階を踏んで認識するという。これらはそれぞれ「感覚」「知覚」「認知」「情緒」と呼ばれる。「広告の効果において、前半部の感覚と知覚が特に重要です。この部分で重要でないと判断された情報は認知や情緒に結びつかないからです」と鴻巣氏は言う。

日本の企業の多くが、アクセスすると初めに動画やたくさんの画像を表示する広告を使用している。鴻巣氏はこの手法についてこう指摘する。「最初に動画や画像を見せることは、情緒レベルの処理をすぐに要求することになります。すべてのユーザーが情緒の段階まで進むわけではないので広告が邪魔だ、面倒くさいと思ってしまう人もいます。まずは感覚、知覚の段階でわかりやすいものでないとユーザーは逃げてしまいます」

また、絵や記号を使えば見やすい、という考え方にも誤解がある。誰でもわかる一般性がない限り、むしろ意味や内容を瞬時に把握することを妨げてしまうのだ。結果、ユーザーはその広告を理解するのに多くの思考を必要とする。

ではどのような広告が効果的なのだろうか。「人間の短期記憶はおおむね7つ前後といわれています。画像や動画を最初に見せるよりも、7つのカテゴリーに分けた文字情報のほうが感覚・知覚の段階でわかりやすいので効果的です」

公式サイトや広告のわかりやすさ、操作の利便性はユーザビリティと呼ばれ、企業イメージに直結する。製品の見た目や機能なども重要ではあるが、ユーザビリティの悪さでユーザーが離れてしまってはユーティリティの評価まで進まない。

しかし、ユーザーが使いやすいシンプルな広告は思ったよりも浸透していないようだ。鴻巣氏は次のように指摘する。「科学技術が進歩しても、人間は案外進歩しないものです。人間の情報処理能力には限界があり、多くの情報を提示したところで全てを処理することはできません。テクノロジーを押し付けるだけでは駄目ですが、作り手は凝った広告の制作に注力しがちで、このことになかなか気づかないのです。より良い効果を得るためには、人間の性質についての学習が不可欠です」。

「好印象である」という一見曖昧な概念も、視覚心理学の手法を用いれば客観的に評価できる。「この広告いいな」と思ったとき、知らないうちに人間の性質を利用されているのかもしれない。
(安田直人)


メディアと広告の関係とは  KMD 岸博幸教授
岸教授assyuku日本における広告の今とこれからについて考えるとき、重要な要素は何なのか。広告ビジネスの戦略論やメディアとネットの融合を専門分野とする慶大大学院メディアデザイン研究科、岸博幸教授に聞いた。

「クロスメディア」はネットやテレビなど複数のメディアを用いアプローチすることで、顧客に効果的に印象を与える手法を表す言葉だ。ネットが台頭してきてから主に使われ始めた。しかしネットが人々にとって当たり前になった今、その概念は時代遅れと言えるかもしれない。

現代の社会ではネットの登場から20年が経ち、ネットの存在を当然だと感じる世代も増えた。ネット空間は間違いなく大きくなってきている。ネットとリアルがシームレスになってきたといっても過言ではない。

ネットとリアルの区別がなくなり、人々がネットをうまく使いこなすようになったことは至る所で見受けられる。例えばネットショッピングが良い例だ。ネット上で注文し、リアルな空間に商品がデリバリーによって届けられる。

未だ衰えないテレビの影響力
ネットの登場によって、テレビや新聞などのマスメディアはなくなるかもしれないと言われたこともあった。しかし、「少なくとも向こう5年、今と変わらずマスメディア、特にテレビはなくならないし、むしろ重要性は増すのではないか」と岸教授は語る。 

岸教授がマスメディアの重要性を指摘するのは、自身の経験に基づいている。2006年からニコニコ動画などのネット番組に出演していたが、反響は小さかった。しかし、2009年頃から情報番組やバラエティ番組など多くのテレビ番組に出演し、その反響の大きさを実感したという。

街中で子供から大人まで様々な年代に声を掛けられることも増えた。広告や宣伝の観点から見ても、テレビで紹介されたお店は予想以上に人の関心を集めているようだ。このことを理解している人は決して少ないわけではない。スマートフォンアプリのテレビCMが流されたり、かつてネットサービスで活躍した堀江貴文さんがテレビに度々出演したりするのはテレビの持つ力の大きさを物語っているのだ。「商品を番組に溶け込ませる広告は効果的」と岸教授は指摘する。番組出演者がその商品を少し褒めたことが信じられないほど大きな宣伝効果を持つ。以前よりも人々に見られる頻度が減ったと言われるテレビCMだが、ブランドイメージを植え付けるにはまだ絶大な影響力を持ち続けている。

なぜテレビにはここまで大きな影響力をもつのか。「テレビを見る時、人は基本的に受動的だ。何もしなくても情報が入ってくる。一方でネットは、クリックしたりスクロールしたりする必要がある点で能動的にならざるを得ない。この差は大きい」と岸教授は語る。ネットが一般化したとはいえ、我々は無意識のうちに受動的でいられるテレビにひきつけられてしまうのだ。

社会に合わせた広告のかたち
もう一点、日本の広告を考える上でスポットライトを当てるべき要素がある。それは少子高齢化の問題だ。人口の多くを占めるようになる高齢者をターゲットとする広告の展開が求められることは言うまでもない。

実際に日本の個人金融資産の約60%は60世以上の高齢者が保持しているとされており、高齢者に受ける広告の形を探っていく必要性は今後ますます高まるはずだ。岸教授は「そういう意味では、ネットではなくテレビショッピングなど大きな画面でのプロモーションが向いている」との見方を示した。

人間は怠け者で受動的なもの。だからこそテレビの存在は思っているよりも大きいのかもしれない。ネットの存在感は日に日に大きくなりもはやインフラと言ってもよいが、技術進歩の速さに比べて人間の性質の変化はそれほど速くない。これから求められる広告は、受動的な人間の心にも響き、行動を促すものなのではないだろうか。
(濱田真優)