慶應義塾大学理工学部市民講座が先月6日、慶大日吉キャンパス藤原洋記念ホールで行われた。第24回目となる今回は慶大理工学部管理工学科の山口高平教授、同大学院システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦准教授、同理工学部生命情報学科の榊原康文教授の3人が登壇し、それぞれが「ビッグデータ」をテーマに講演をした。
第1講 ■慶大理工学部 山口高平教授 行政とeコマースにおけるビッグデータチャレンジ
最初に慶大理工学部管理工学科の山口高平教授が登壇。
ビッグデータは「Volume(データ量)」「Variety(多様性)」「Velocity(頻度)」の頭文字を取った3Vの要素で定義される。ただ単にデータ量が多いだけではなく、データの多様性が特徴となる。
現在、膨大なデータの中に相関関係を見つけてそれを実際に使える情報にするためには人為的作業が必要不可欠であるため、データ処理には限界がある。山口教授は、「大量のデータの処理に人工知能を導入することでより処理効率が上がるだろう」と語った。
第2講 ■慶大大学院SDM研究科 神武直彦准教授 位置情報ビッグデータによる社会イノベーション ~宇宙からコミュニティまで~
続いて登壇したのは慶大大学院システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦准教授。位置情報を用いたサービスについて語った。
位置情報を知ることができるシステムにはGPSがあるが、これはアメリカの衛星からの電波を用いたシステムであり、アメリカの情勢によってはその利用が制限されてしまうことがある。日本でも国産の準天頂衛星を打ち上げているが、衛星を使った位置情報システムは屋内では位置の測位がしにくいという欠点がある。
そこで、屋内でも位置情報を様々な方法で端末に送ることによって屋外同様の位置情報を得られるようにするシステムがあるのだという。
また、神武准教授は個人情報保護の観点からもビッグデータに言及。位置情報ビックデータによるサービスは個人からの位置情報提供に基づいているが、その位置情報は個人の所有物なのか、取得した企業の所有物なのか日本では厳密な定義がされていない。そのため、ビックデータを取り扱う際には細心の注意が必要であるという。
第3講 ■慶大理工学部 榊原康文教授 ビッグデータが開く新たな生命科学と医療
最後に慶大理工学部生命情報学科の榊原康文教授が登壇し、ビックデータを用いた医療の未来について語った。
ビッグデータは生命科学や医療にも影響を与える可能性がある。例えば、人間の全遺伝情報である「ヒトゲノム」が解析されたことで、、個人の遺伝子から将来かかる可能性の高い病気をある程度予測することができるようになった。それだけでなく、自分の家系のルーツがどこにあるのかを調べることさえ可能になった。
遺伝子以外にもカルテやお薬手帳、体温、血圧といった情報を電子化して管理することで今までにないIT主導による医療が実現できるという。これによって、「医療は今までの病にかかってから対処する方法から病にかかる前に予防する医療に変わっていくかもしれない」と榊原教授は今後の医療についての展望を語った。