バブル崩壊後、「失われた20年」の始まりとともに日本の企業形態は大きく変化した。コスト削減に比重を置き、従業員を「使い捨てる」社会となった。「ブラック企業」という言葉はここで生まれ、今や世間ですっかり定着している。
不況の続く現在、「ブラック」な扱いは企業に勤める社会人に対してだけでなく、「ブラックバイト」という形で学生にも広がりつつある。その現状と解決策を探った。
アルバイトなのに正社員並みの長時間労働を強いられる、商品の買い取りを強要される、シフトを強制的に決められ学業に専念する時間がとれない。このように、学生生活に支障をきたすほどのアルバイトを「ブラックバイト」と呼ぶ。
昨年8月に設立された「ブラックバイトユニオン」はブラックバイトから学生を守るための労働組合だ。30名程の学生も参加する。代表の渡辺寛人さんに話を聞いた。
「フリーター」や「ニート」という言葉が広まり、若者への風当たりも強かった2006年、若者の労働問題に取り組む先駆けとして当時の大学生を中心にNPO団体「POSSE」が立ち上げられた。そして昨年、そのメンバーが中心となってブラックバイトユニオンを設立した。当ユニオンでは、普段から電話で相談を受けたり、大学に講演に行ったりしている。
相談内容で多いのは「やめたいのにやめられない」という声だ。その原因の一つに、日頃から植えつけられた責任感がある。正社員が少なくアルバイトが中心になって店を回していたり、アルバイトリーダーにならされたりと、自分がやめたら誰がこの店を支えていくのかという重い責任を背負わせるのである。
バイトの給料は1分単位で支払わなければならない、誤魔化されている労働賃金や残業代は取り返すことができる、などこれらは労働基準法に示された規定だが、知っていた学生はどれほどいるだろうか。企業は、このような学生の無知さに付け込んでいる。
また「学生の間には諦めが蔓延している。どうせアルバイトの身分だからどうにもならない、アルバイトとはこんなものだろう、などと思っている学生が多い」という。会社側が学生の泣き寝入りを狙っている場合も多いのである。
ブラックバイトへの対処方法について、ポイントは四つあるという。「まず諦めないこと。二つ目が自分を責めないこと、三つ目が証拠を集めること、そして専門家に相談すること」。「また労働条件を書いた契約書は書面でもらう必要がある。」三つ目のポイントについて特筆すると、会社に賃金未払いやパワハラを訴える場合には、タイムカードの写真や録音などの証拠があれば争う際にとても有利になる。未払いの賃金を取り戻したり、パワハラやセクハラを訴えたりする場合には日頃から証拠を集めることが重要であるという。
学業をすべき時間がブラックバイトに食いつぶされているのでは、将来の日本社会を担っていく若者が育たない。「ブラックバイトが社会問題として認知されるために、私たちはそういう提起をしていきたい。悩んだらすぐに相談してほしい」。今まで多くの学生を救った渡辺さんが力強く語ってくれた。
(山下菜生)