長く降り続く雨に、気分も景色も暗くなる。そんな曇り空の季節に彩を加えるのが、アジサイの花である。

アジサイは古くから日本人に観賞用として愛され、その名所は日本各地に存在する。公共施設や鉄道、道路の沿線に植えられているものもあるが、多くは境内にアジサイを植えた「アジサイ寺」というものである。

アジサイ寺が多く存在し関東エリアから手軽に訪れることのできる名所といえば、やはり鎌倉であろう。鎌倉といえば、大仏や鶴岡八幡宮などの定番スポットをめぐるのも良いが、アジサイの名所をめぐるという選択肢もある。今回は、特に北鎌倉エリアと長谷エリアに絞ったアジサイ名所をご紹介しよう。

北鎌倉エリアは都会の喧騒を忘れさせてくれるような静かな自然の中に、アジサイを見ることのできる古寺が点在する。その中でも有名なのが、上杉家をルーツとする明月院だ。アジサイが美しい季節になると、たくさんの観光客が訪れる。また、北条氏を開基とする東慶寺や浄智寺でもアジサイを楽しむことができる。

江ノ島電鉄道長谷駅を中心とする長谷エリアは、鎌倉大仏でよく知られている。長谷駅から海と反対方向にある鎌倉大仏に向かって歩いていくと、道沿いにはお洒落なカフェや雑貨屋が立ち並び、行き交う人々で賑わう。鎌倉大仏に向かう途中で西に折れると、アジサイの美しい光則寺、長谷寺がある。

ところで、なぜお寺にアジサイがるのだろうか。アジサイ寺のひとつ、長谷寺にお話を伺った。

長谷寺は下境内と上境内に分かれており、それぞれ観音山の裾野と中腹とに建てられている。境内は古くから緑豊かな庭園であった。しかし花の植栽を始めたのは30年ほど前からと、意外に最近のことだ。
境内の建造物の再建が一段落したのをきっかけに、力を入れ始めた。これは鎌倉の西域に位置する長谷寺が、現世の西方浄土を創出しようとの思いがあったそうだ。アジサイに限っていえばその歴史はさらに新しく、15年前のことであった。
アジサイを植えるようになった理由を伺ってみると、意外な答えを頂いた。「アジサイが潮風による塩害に強く、湿気にも適合し、なおかつ斜面の土留めの役割も果たすことから、沿岸部に隣接し山に囲まれた当山の環境に適していたためであります」とのことだ。

長谷寺では40種以上約2500株のアジサイを観賞することができ、境内散策路を「あじさい散策路」として開放している。アジサイの見頃のピークは6月中旬から下旬といわれているが、7月上旬まではアジサイを楽しむことができる。

もちろん、寺によってもアジサイを植えるようになった経緯は様々であろうが、戦後になってアジサイを植えた寺も多くあるようだ。

江ノ電の車窓から見えるアジサイや公共施設など、鎌倉のアジサイスポットアジサイ寺だけに限らない。歴史ある街並みの中で、静かに咲くアジサイの姿は、ほかの花にはない魅力がある。

アジサイの花言葉には、「移り気」や「冷淡」などがある。なんともつれない花なのだ。花が咲く土の酸性度によっても色が変わってしまう、気まぐれで表情豊かなアジサイの花。雨で沈みがちな気分を癒すためにも、アジサイ寺に足を運んでみてはいかがだろう。
(安田直人)
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