言語としての手話を考える
慶大経済学部の松岡和美研究室が主催する『ろう者と聴者が協働する手話言語学ワークショップ』が先月7日、日吉キャンパス来往舎のシンポジウムスペースで行われた。第3回目となる今回は「手話言語の名詞表現」をテーマに、さまざまな年代の聴者とろう者が合わせて約60人が参加した。
イベントでは、音声言語の分析を専門とする言語学者と日本手話を母語とするろう者が、音声日本語における「私」や「あなた」、「彼・彼女・それ」といった代名詞の手話での表現方法とその言語的性質について話し合った。
従来の日本の手話研究では、研究者が研究の目的や成果をろう者に十分に還元していないことが問題とされてきた。そのため当イベントは、研究者が行うデータ収集の方法と過程をろう者を含めた一般の人々に理解してもらうことが目的のひとつになっている。
イベントの冒頭、松岡教授による導入講演が行われ、企画の趣旨が説明された。その中では外国の手話による名詞の表現方法が参考例として紹介された。その後、2つのグループで言語学者とろう者の間で手話通訳を交えた話し合いが行われた。扱う文章表現は平易なものから始まり、次第に用いる文の構造が複雑になっていった。
今回、ディスカッションに参加したろう者と通訳はともに言語学の基本知識を身に付けており、議論は終始活発なものとなった。また、ディスカッションの合間には、質疑応答の時間が設けられ、イベントの参加者が質問をする場面もあった。
松岡教授は日本語と日本手話の違いについて、「疑問文の語順を含めて、文法が全く異なる。ろう者が母語とする手話をイタリア語のように異なる言語として扱うのは世界の趨勢であり、そのことをより多くの人に知ってもらいたい」と述べ、日本手話を、日本語を手指で表しただけの手指日本語とは違って一つの言語として認識することの重要性を語った。
なお、今月から全学部の学生を対象とする言語文化研究所特殊講座「日本手話」科目が三田で開講される。
【用語解説】
■手指日本語(日本語対応手話)
音声言語である日本語に手話単語を一語一語対応させていくもの。語順や文法が日本語と全く同じであるため、言語学の観点からは日本語に分類される。それに対して日本手話は語順や文法が日本語と根本的に異なり、日本語とは異なる言語に分類される。