「サブカルチャー」。この単語を聞いたことがない日本人はおそらくいないだろう。最近では外国人観光客を相手にした、日本の代表的な商売としても利用されている。しかし、実際に日本のサブカルチャーは、海外の人びとにどのように受容されてきたのだろうか。
今回は、サブカルチャーの中でも、日本のアニメがどのように中国で受容されてきたかを、慶應義塾大学理工学部の山下一夫准教授に伺った。山下准教授は、中国語の教員でありながら、自身の研究と趣味の範囲で主に中国においてのサブカルチャーについての研究をしている。
中国へと渡った経緯
そもそも、中国は共産主義国だ。だから日本のような資本主義国の文化というものは入ってこなかった。つまりその間はソ連の影響のみを強く受けていた。しかし「80年代終わりに中国が文化解放政策をとると、どっと日本の漫画とかアニメとかが海賊版として入ってきた。僕の学生時代なら『聖闘士星矢』とかね」と言う。
このように日本からの文化が大量に輸入されるようになると、サブカルチャーが中国内に影響を与え始めた。しかし、もともと中国にアニメなどの娯楽メディアがまったく存在しなかった訳ではない。むしろ、先述した通りソ連からの影響を受けたソ連風のアニメは、以前から中国国内にも存在していたのだという。
中国人と日本文化の相性
ではなぜ、そういった環境の中で日本のアニメや漫画が中国人に好まれるのだろうか。
「それまでの中国の芸術は堅苦しいものが多くて、あんまり人間の欲望を満たすものではなかった。対して日本の漫画とか西側のものはやっぱり誰にとってもわかりやすくて面白い。堅苦しい芸術とかを見たい人は一部で、多くの人は自宅でテレビを見てる方が楽しいんだよね」。
輸入規制を受けて
現状は
日本の文化が中国に浸透していくことを、中国の共産党は日本の文化侵略として捉え、海賊版の販売もほとんど禁止している。現在は、違法なルートを通って海賊版が取引されている状態だ。中国政府主導で中国産アニメを作るといった対策もとられたが、結局は失敗に終わった。とはいえ、技術的なレベルは向上したため、日本のアニメ会社から製作依頼を受けるという形が続けられることになった。また、時間の経過とともに海賊版の漫画も再び市場に流れ始め、消費されていくようになった。
日本側の対応
今では、海賊版主導である中国に対応して利益をあげられるように、日本のサブカルチャー企業も努力している。例えば、ライトノベルをアニメの原作本として売ったり、日本の声優を連れていってコンサートを開催したりしている。
「日本の声優をあっちにつれていってコンサートさせるということは、日本語でアニメを見ていることが前提なので、ネットで(非正規品を)見てることを認めていることになる。これってもう企業側も開き直ってるってことだよね」と笑いながら語ってくれた。
サブカル業界
これからの課題
ここまで見ていたような海賊版の問題は中国国内における課題かもしれないが、日本でもネットで音楽や動画を違法にダウンロードするなど、コンテンツにお金を払わない消費者が増えている。
ネットが普及し入手ルートが増えていく状況の中で、コンテンツの生産者がそのコストを回収するために利益を上げる努力をしなければいけないのは、日本でも同じことなのかもしれない。
(中村太一)