全ての学問に通じる力試す 社会が求める未来の人材

この2月に行われる大学入試は、高等学校の学習指導要領が改訂され、新課程に移って最初の年となる。完全に移行する2016年度には、SFCの一般入試で「情報」の選択科目が新たに導入される。この導入にはどのような意図があるのだろうか。環境情報学部長の村井純氏に聞いた。(安田直人)

情報入試について語る環境情報学部長の村井純氏
情報入試について語る環境情報学部長の村井純氏

「情報」導入の経緯

1990年に設立されたSFCでは、情報を扱う力を持った学生を獲得する意図から、数学に「情報」の内容を含めて出題していた。しかし高校が新課程に移行するにあたって数学から「情報」が独立し、従来の英語および数学の入試では情報を扱う力が試せなくなった。科目としての「情報」の導入はこの流れの中で実施される。

情報を扱う力

情報を扱う力とはインターネットやコンピューターを使う技術を指すのではなく、すべての学問分野において重要な問題解決能力であると村井氏は言う。これまでの学問は、地道に実験や検証を行い、データを蓄積するものであった。この方法は非常に手間と時間がかかり、研究の進みを遅くすることにもなりかねなかった。現代では、先人たちの研究成果や研究対象の多くがデータとしてまとめられており、インターネットで世界中からアクセスすることができる。そのデータ量は膨大なものだ。例えば哲学を学ぶ際、過去の哲学者たちがどのような言葉を使っているかをコンピューターで分析することができる。膨大な文献を手作業で分析するのと比べるとかかる時間ははるかに短い。

求められるIT人材

研究を効率的に進めるためには、膨大なデータを分析し、必要な部分を選び取る力が求められる。この能力が「情報の力」であり、データを解析して真実に迫る力は全ての学問に通じる必要不可欠なものである。

日本では情報を扱う力を持った人材の多くはIT産業に進む。一方で情報を利用する一般のユーザー企業にはそうした人材が不足している。ITに優れた人間がユーザー企業に進むようになれば日本の産業はより活性化し、またそうした企業がIT人材を獲得すれば情報教育のさらなるエネルギー源となる。情報を入試科目としている大学はまだまだ少ないが、情報化社会の中でITに長けた人材が求められる限り、「情報」科目を入試に導入する大学は増えていくだろうと村井氏は予想する。

入試が示す大学の意図

入試は大学のアドミッションポリシーを端的に示すものであり、そこには大学の求める人材についてのメッセージがある。例えば環境情報学部のアドミッションポリシーには「ひとつの学問分野にとらわれることなく幅広い視野を持ち、地球的規模で問題発見・解決できる創造者でありリーダーを目指そうとする学生を歓迎します」とある。進路が決まっていない高校生にとってSFCが打ち出した方針は将来つけるべき力の一つの指針となりうる。

このような入試に限らず、SFCは塾内進学やAO入試で多様な人材を獲得してきた。村井氏は同じ大学の中に多様な価値観の学生がいることが大きな特徴であると位置付ける。今回の情報入試導入でも、他大にも影響を与えるパイオニアとしての役割を担った。

「情報」だけに優れた人材を合格とすることは、全体として能力を下げることにはならないだろうか。村井氏は必ずしもそうはならないと言う。SFCではこれまでも数学、英語一科目と小論文によって試験を行ってきた。英語をきちんと読める人は論理的思考力に優れているなど、学問間には相通じる能力がある。「情報」によってもすべての学問に必要な基礎的能力を試すことが可能であり、小論文と合わせて「面白い人材」を獲得することができると村井氏は言う。

後輩からも刺激を受けて

「ゆとり世代」と呼ばれる現在の大学生の後には新課程の学生たちが入学してくる。彼らに負けないためにはどうすればよいか。村井氏は好きなことに情熱を傾けること、違う世代の後輩と交流することを挙げた。

「情報」科目を導入した入試は、社会で今求められている人材のひとつの指標である。新たな世代に刺激を受け、すでに大学生となっている者も自分が備えなければならない能力を考え直すよい機会ではないだろうか。