勝ち点を奪取した方が優勝という例年以上に注目を浴びた今季の早慶戦。慶大は宿敵早大を相手に見事連勝し、2011年春季リーグ以来6季ぶり34回目の優勝を果たした。今季の勝因を探っていきたい。
まずはチームの打撃成績から振り返る。下の表は4位に終わった昨秋との比較である。
試合数 | 得点 | 平均得点 | 本塁打 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2013秋 | 13 | 35 | 2.69 | 2 | 0.246 | 0.306 | 0.321 | 0.627 |
2014春 | 12 | 60 | 5.00 | 10 | 0.270 | 0.339 | 0.403 | 0.742 |
どの項目を見ても、昨年とは全く別のチームであることがわかる。昨秋よりも1試合少ないにもかかわらず得点は25点増、平均得点に換算しても大幅に得点力が向上している。また本塁打数も昨秋はわずか2本に終わったが、今春は10本と長打力も兼ね揃えたチームへと変貌している。単純に長打力をつけたことにより、打撃評価の指標であるOPS(出塁率+長打率)は実に1割以上数字を伸ばしている。優勝インタビューにて江藤助監督が「今年は打のチーム」と語った通り、今年の慶大野球部はまさに「打のチーム」であった。
その打のチームを支えたのが谷田(商3)、横尾(総3)、藤本知(環4)、竹内惇(商4)と打線の中軸を務めた3-6番である。以下は4選手の今季成績である。
本塁打 | 打点 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS | |
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谷田 | 4 | 8 | 0.320 | 0.370 | 0.620 | 0.990 |
横尾 | 1 | 9 | 0.318 | 0.396 | 0.500 | 0.896 |
藤本知 | 3 | 10 | 0.277 | 0.300 | 0.553 | 0.853 |
竹内惇 | 2 | 10 | 0.436 | 0.522 | 0.692 | 1.214 |
昨秋、OPS.929とブレイクした谷田が今季はさらなる成長を遂げた。OPS.990は3番打者として文句なしの成績な上、4本塁打は早大武藤と並んでリーグトップ。また優勝を決めた早大2戦目では決勝本塁打を放つなどここ一番で頼りになる存在となった。来季以降もチームを勝利へ導く一発に期待がかかる。
横尾は昨年までの2年間は大学野球への適応に苦しんでいた印象があったが、3年の春になり、ついに本領発揮。惜しくもOPSは.900に届かなかったが、飛躍のシーズンとなった。法大1戦目の同点適時二塁打や立大2戦目の2点本塁打など逆方向への長打が特に印象的であった。またサードの守備でも度々ピッチャーを救う好プレーを見せるなど攻守に光った。
藤本知は昨秋わずか7試合の出場に留まったが、今季は5番センターで定着。自身最多となる3本塁打で自慢の長打力を発揮すれば、打点もリーグ2位タイとなる10と勝負強さも見せた。早大1戦目の試合の流れを変えたダイビングキャッチは記憶に新しい。
3年間でわずか7試合の出場経験しかなかった竹内惇は今季は6番セカンドのレギュラーとして全試合に出場した。すると6番ながらチームトップクラスの打撃成績を残し、打率.436はリーグ2位の数字。また早慶戦では1戦目の逆転2点本塁打を含む2試合で7打数5安打と大暴れ。見事満票でセカンドのベストナインに選出され、慶大の選手としては2011年春の伊藤隼太(現阪神タイガース)以来初めてリーグ戦『ファンが選ぶMVP』も受賞している。
ここまでは打撃面について振り返ってきたが、今季の慶大野球部は積極的に次の塁を狙っていくチームであった点も見逃してはいけない。最初の表には載っていないが、チームの盗塁数は8と決して多くはなく、決して俊足揃いのチームではない。しかしシングルヒットで2塁からホームインするケースが非常に多く、また明大1戦目のファーストファールフライでの谷田のタッチアップ(結果的に悪送球を招き、決勝点に繋がった)や早大2戦目でワンバウンドした投球で竹内惇が3塁を陥れるなど積極果敢な走塁がチーム全体として見られた。
続いてチームの投手成績を振り返る。打撃成績と同様に、以下の表は昨秋との比較である。
試合数 | 奪三振率 | 与四死球率 | 防御率 | WHIP | QS | |
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2013秋 | 13 | 6.50 | 3.91 | 3.37 | 1.23 | 3 |
2014春 | 12 | 7.13 | 3.06 | 2.38 | 1.13 | 8 |
注目は防御率が大きく改善している点。防御率2.38はダントツでリーグ1位の成績である。白村(現北海道日本ハムファイターズ)が抜け、早大有原、法大石田、明大山崎のようなドラフト候補もいない中、この防御率は立派であろう。またQS(クオリティースタート、先発投手が6回以上3自責点以内)も12試合で8、HQS(ハイクオリティースタート、先発投手が7回以上2自責点以内)に限定しても5と今季は特に先発投手の踏ん張りが目立った。打のチームでありながらも投手陣がこれだけ抑えれば簡単には負けないだろう。
個人成績も確認しよう。以下は今季先発を主に務めた加藤拓(政2)と加嶋(商3)、またリリーフで好投した三宮(商3)の成績である。
試合数 | イニング数 | 奪三振率 | 与四死球率 | 防御率 | WHIP | QS |
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加藤拓 | 6 | 41 1/3 | 8.71 | 2.40 | 0.87 | 0.82 | 5 |
加嶋 | 6 | 35 2/3 | 5.05 | 2.52 | 3.03 | 1.23 | 3 |
三宮 | 8 | 20 | 9.90 | 4.05 | 3.60 | 1.35 | 0 |
今年のドラフト1位候補の早大有原などを抑えて加藤拓が最優秀防御率に輝いた。最速150キロの力強い速球が武器の加藤拓は今季先発した5試合でいずれもQSを記録する抜群の安定感を発揮。昨秋は与四死球率(9イニングあたりに与える四死球の数)が4.54と制球に課題を残していたが、今季は2.40と劇的に改善。無駄な走者を与えなかったことが好成績に繋がったと考えられる。法大2戦目の15奪三振完封勝利、早大1戦目の完投勝利、2戦目の好リリーフなど加藤拓の存在なくして今季の優勝は語れない。
加嶋も昨年のノーヒットノーランはまぐれではないことを証明した。決して打者を圧倒するタイプのピッチャーではないが、持ち前の制球の良さを生かして自己最高のシーズンとなった。来季以降も先発陣の柱となることは間違いない。
三宮はリリーフでフル回転。立大3戦目と早大2戦目で打ちこまれてしまい、防御率は3.60に終わったが、それまでは防御率0.56とほぼ完璧に抑え込んでいた。WHIP(1イニングあたり何人の走者を出したかを表す指標)の高さと四死球の多さが気になるも、140キロの速球と大きく変化するカーブを中心にイニング数以上の奪三振を記録した点は今後も大いに期待できるだろう。
投打が非常にかみ合い、東京六大学の頂点に立った慶大野球部。次は今月10日から始まる全日本大学野球選手権にて大学日本一を狙う。前回出場した際は決勝で東洋大に敗れ、惜しくも準優勝に終わったが今度こそ日本一の座を掴みたい。慶大の初戦は11日、神奈川大(神奈川大学野球連盟代表)と西日本工大(九州地区大学野球連盟代表)の勝者と戦う。※データは弊紙計算 (上井颯斗)