2009年5月21日より、日本において裁判員制度が実施される。20歳以上であれば、原則として誰でも裁判員になることができるため、我々大学生も学生生活中に裁判所へと足を運ぶ可能性がある。実施まで約半年となったこの制度であるが、学生達は司法に対しどのような意見を持っているのだろうか。今回は慶應義塾大学に通う学生に制度に関するアンケートを行い、学生達から出た疑問をもとに司法の専門家の方々へお話を伺った。

(永瀬真理子・金武幸宏)

―裁判員制度の是非についてどう思われますか?
 栃木県弁護士会として、2008年5月に裁判員制度の延期や見直しの決議を挙げたのは事実。しかし、今後一切制度に協力しないという訳ではない。制度の実施はほぼ確定しているため、現在は検察庁や裁判所と協力して模擬裁判や研修、公判前整理手続などを行い、実施のための準備体制を整えている。

―裁判員制度の問題点とは?
 弁護士の立場から言わせてもらうと、証拠制限がされてしまうこと。制度実施に向け、公判前整理手続が導入され、これまでの刑事裁判のあり方は大きく変わる。弁護士は公判前に争点を明示し、自らの証拠を示さなければならず、原則的に手続きの終了後に新たな証拠を提示することは出来なくなってしまった。裁判員の負担軽減を重視しすぎ、争点を絞り込みすぎることにより窮屈な弁護しか出来なくなってしまうという点が挙げられる。
 国民の立場から言わせてもらうと、日本に根付きにくい制度であるということ。日本国民にとって、民主主義は与えられたものという認識がほとんどだ。今回の制度も、自分達が主権者として自ら作り上げていくという認識から始まったわけでなく、小泉内閣の司法制度改革に端を発している。それゆえ、国民の制度に対する印象はあまり良いものではなく、「面倒くさい」「人を裁きたくない」という感想を持つ人が多い。自分達が制度、社会を作っていくという認識が国民に根付くかどうかが心配だ。

―制度の意義や、社会への影響は?
 制度の理念自体は、民主主義の原点とも言える素晴らしいもの。制度実施により、学生への法教育のあり方も変わってくる。単に法律の知識を教えるのでなく、様々な利害がある中で、何が最善かを考える公平な目を養う教育が重視されるようになる。

―裁判員制度に関する学生アンケートを見てどう思われますか?
 まさに国民の素直な感想だと思う。「裁判が遠い存在である」という考えについては、自分なりに接近する努力が必要であろう。
「素人が人を裁けるのか疑問」という考えについてだが、裁判員に必要なのは法律の知識ではなく事実認定の力。制度は裁判官と国民の間で事実認定力や量刑の感覚は大差ないという前提で作られているため、「素人だから」という認識は改め直す必要があるだろう。

―今後学生は裁判員制度とどう関わっていくべきでしょうか?
 まず、「仕事があるのに制度に参加するのは煩わしい」という意識をなくして欲しい。民主的な国家を作るには、国民の制度への積極的な参加が必要。裁判員に選ばれたら、人を裁くことをプレッシャーに感じるのではなく、自信を持って意見を言ってほしい。
大学教育を受ける学生というのは、選ばれた裁判員の中でも影響力のあるオピニオンリーダーになり得る。自分が主役であると思い、自分達の意見をぶつけ合うといい。国民の活発な議論こそが裁判員制度をより良い制度へと導いていくと思う。

▼公判前整理手続
刑事裁判の充実・迅速化を図るため、公判前に争点を絞り込む手続。裁判員制度導入をにらみ、2005年11月から導入された