増税が社会に与える影響とは
昨年10月1日に閣議決定された消費税率8%への引き上げが、4月1日より実施される。今回の消費税増額の理由として、政府は社会保障の充実と財政構造の建て直しを挙げ、長引く財政赤字と高齢化社会への対応を行う。この「社会保障と税の一体改革」とともに時期を同じくして法人税引き下げが検討されているが、消費税増額との兼ね合いもあり賛否が分かれる。また、地方の医師不足、年金問題などといった社会制度問題の抜本的な見直しには依然として至っておらず議論が続く。 (和田啓佑)
政府は当初、高齢化、非正規雇用の増加などに対する国民の不安に応えるべく、社会保障制度の整備・充実を主軸とした政策を提示していた。今回の消費税引き上げは、この「社会保障と税の一体改革」の一環であり、社会保障のための財源確保を目的としたものだ。
しかし、増税の本来の目的がなかば形骸化し、「どれだけ増税すればいいか」といった目先の議論に終始しがちな現状がある。慶大経済学部の金子勝教授は「何のための増税か、どういう形の税制が良いのか、という点がきちんと話し合われていない。目前の景気回復などに議論が終始してしまいがちな傾向がある」と目的の曖昧化に危機感を募らせる。
消費税率引き上げを行う今の時期に検討が進められている法人税引き下げでも、賛否が分かれている。慶大経済学部の土居丈朗教授は法人税率の引き下げに対し、「法人税を下げることで、企業の海外移転による日本の国内雇用の減少を防げる」と肯定的に捉えている。一方で金子教授は「消費税を上げても、法人税を下げたのでは財政再建に貢献しない」と否定的な立場をとっている。
国民の税制上の負担をいかに均一化するか、という点は両氏ともに重要視しているものの、現状の仕組みではあまり達成されていないのが実情だ。高齢化が加速するなか、今回の増税によって若年層の負担がより大きくなってしまう危険がある。また、消費税の増税によって生活費が上がると、所得の低い人ほど収入に占める負担は大きくなる(消費税の逆進性)。食品をはじめとした生活必需品にかかる税率を低くする軽減税率制度の導入など、逆進性対策についてのさらなる議論が急がれる。
政府は1年半後の15年10月に、経済の状態を鑑みつつ、消費税をさらに10%へ引き上げる予定だ。前回(97年)3%から5%に消費税を増額した時期には経済が落ち込んだこともあり、今回の増税に際しても影響を懸念する声がある。しかし、これについて土居教授は「当時の経済の落ち込みは、消費税増額よりもむしろ同時に発生していた金融破綻によるところが大きい。駆け込み需要など多少の波は立つものの、今回の2段階の増税では特段大きな影響は生じないだろう」と話す。
今後の増税に向け、大枠を捉えた本質的な議論と、より現実的で実践的な議論の両方が求められる。金子教授は「増税に反対というわけではない。ただし、歳出と歳入の数字合わせではなく、持続可能性を失った社会制度全体の立て直しを同時に考えていかなければならない」と語る。一方で、「悠長に議論ばかりしていては一向に財政再建へ向かわない。問題を先送りしないためにも、今増税するのはやむを得ない」と土居教授は述べている。