仮面ライダーシリーズで知られる石ノ森章太郎さんの作品を展示する石ノ森萬画館は昨年3月、リニューアルオープンを果たした。東日本大震災で津波の被害を受けた萬画館は、これまで多くの人たちの弛まぬ努力と想いによって支えられてきた。今回は震災当時から萬画館再開に尽力してきたひとり、大森盛太郎さんにお話を伺った。
地震発生後、大森さんは館の状況を確認するために急いで萬画館へ向かった。スタッフの安否を確認し、建物の損傷が思っていたよりも小さかったことに胸をなでおろした。しかしその後、津波が押し寄せてきた。「一時は死を覚悟した。でも館を離れることは考えていなかった」と大森さんは語る。その後も館に留まり続け、被災から5日間、近隣の住民たちを迎え入れながら萬画館で避難所生活を送った。
「館内の皆は不安でいっぱいだった。そんななか、避難してきている子供たちが漫画を読みあさっている光景が印象的だった」。大森さんはこの時、漫画の持つ力を感じたという。日本中に自粛ムードが漂うなか、萬画館は震災の2か月後に復興イベントを開催した。「不謹慎だと非難される懸念はあった。それでも、今こそ力をあげて元気を出していくべきだと思った」と大森さんは当時を振り返る。
スタッフたちの、萬画館再開への想いも強かった。「本当に苦しかったが、スタッフとは解雇という形で一度別れた。だがその後、頼まずとも萬画館に駆けつけて掃除などを手伝ってくれた」。萬画館の復活に懸ける思いは皆同じだった。各地からボランティアも参加し、津波によって館内にたまった汚泥を皆で取り除いた。そして迎えた復興イベント当日は、約6000人が来場し大成功を収めた。その後も完全再開を目指して取り組みを続け、震災後1年8か月後には萬画館再開を果たした。
昨年3月には展示内容も刷新し、リニューアルオープンした萬画館だが、大森さんは喜んでばかりはいられないと考えている。「もっとうまくこの萬画館を活かさなければならない」と危機感を強く持っているという。「実は今が正念場。状況が刻一刻と変わっていく。そして記憶の風化も進む。復興へ良い流れに持っていかなければならない」と大森さんは語る。館のみの集客を図るのではなく、石巻の街に多くの人を運んでいけるよう波及効果を望んでいる。
「被害者意識が強いと何もできない。これからは防災・防炎を伝える街にしていきたい」。萬画館を中心にして石巻市を盛り上げ、震災の記憶を伝えていく。大森さんたちの取り組みはまだ始まったばかりだ。
石ノ森萬画館は北上川の河口付近に位置する。川沿いを歩いていると、広大な更地が目に入る。所々で建設工事が行われていたが、どことなく寂しさを覚えた。この寂しさを感じさせたのは更地のせいではなく、あたりに人影がなかったからだろう。
石巻駅付近は古くからある商店のほか、震災後に作られた新たな建設物も見られ、見た形は街そのものであった。しかし、私は更地に立っている時と同じ寂しさを感じた。建物ではなく生活をする人がいて初めて街になるのだろうと改めて認識した。人々が何気ない生活をその土地で送れるようになるようになるまで、復興という言葉は使うことはできないのだろうと思った。 (片岡航一)