義塾が来年創立150年を迎えるにあたって、関連する事業などが一般のメディアに取り上げられる機会が増えてきた。しかし、義塾とメディアで「創立150年」の表記の仕方が違っている。伝えられる側と伝える側という立場の違いが微妙なズレを生んでいた。
現在、全国各地で行われている創立150年記念講演会「学問のすゝめ21」の開催がプレス発表された際、全国紙などの報道で「創立150周年」と表記される例が目立った。しかし、創立150年に関連する義塾側の発表は、すべて「創立150年」で統一されており「周年」とは表記されない。記念事業を進める部署も「創立150年記念事業室」だ。
なぜ義塾は「創立150年」という表記にこだわるのか。この点について、創立150年記念事業室のある担当者はこう答えた。
「『周年』は、創立した月日を起点に何年経ったかを測る言い方です。しかし慶應の場合、福澤諭吉が(義塾の起源とされる)蘭学塾を開設したのが1858年というところまではわかっていますが、何月何日なのかははっきりしていない。だから『創立150周年』とは言わないのです」。
ちなみに開校記念日は4月23日となっているが、これは義塾が新銭座から三田に移転した日に由来する。しかし、この4月23日も実は根拠がかなり怪しい。旧暦3月23日が移転日とされているが、これを新暦に読み替えると5月12日になる上に、そもそも移転日が旧暦の3月23日であるという史料的根拠が薄いというのだ(慶應義塾豆百科)。
「創立150年」で通したい義塾と、そうは表現しないメディア。そこにはメディア側の事情もあるようだ。大手通信社の記者はこう語る。
「うちの会社の基準では、めでたいことには『周年』をつけることになっている。だから、ダイアナ妃死去10周年とはやらず、ダイアナ妃死去10年。大学の創立何年はめでたいことでしょう」。
伝えられる側と伝える側のそれぞれの事情が、「周」というたった一文字の微妙な違いを生み出しているようだ。
(福冨隼太郎)