10月18日 vs早稲田大学 ○ 87―78
10月19日 vs早稲田大学 ○ 112―94

個人的に思っていることだが、代々木第二体育館ほどバスケットの写真撮影に適した会場は無い。撮影ゾーンとコートとの距離、会場の明るさがその要因だ。一般の大学の体育館だとコートと客席が近く、必然的に撮影ゾーンが狭くなり、当然コートとの近さゆえに視野も狭くなってしまう。おまけに、暗さゆえデジタルのカメラではどうしても画質が悪くなる。照明が明るく、コートと客席が隔てられて撮影ゾーンとコートに一定の距離感がある代々木第二は、まさに格好のバスケットボール撮影ポイントなのである。その代々木第二が大学バスケットのリーグ戦の試合会場になるのは関東1部のゲームのみ。取材環境にも1部と2部で格差はあるのだ。

ポイントゲッターは山本のみ。手詰まり感否めない大東大との入れ替え戦に。

さて、19日の日曜日に私はその1部の会場を訪れたのだが、それは言うまでも無く入れ替え戦の相手となるチームの状態をチェックするためである。慶大は土曜日のゲームで早大を退け、明大が筑波大に敗れたためこの時点で2部の優勝を決めていた。2部1位チームの入れ替え戦の相手となるのは1部8位のチームである。こちらはまだ確定ではなかったが、土曜日の結果が出揃った段階で、得失点差の関係で昨年慶大と入れ替わって1部に昇格した大東文化大でほとんど決まっていた。

大東大の試合は、はっきり言って低調なものだった。相手の中央大は、前日のゲームで大勝。直後の試合で下位争いを演じていた日体大が敗れたため、1部の残留、6位という順位を確定させていた。そのため中央大は、モチベーション低下のせいからか足の動きが鈍い。オフェンスは単発で、3Pはこの日4/31という非常に悪い成功率だった。相手がこれではあまり参考にならない、と思った。

しかし、それでも大東大の状態の悪さも目に見えて伝わってきた。低調な中央大を相手に何度もオフェンスリバウンドに飛び込むが、セレクションの良いシュートも決められない。ハイレベルな能力を全面に押し出す竹野明倫(bjリーグ・新潟)、阿部友和(レラカムイ北海道)を擁し、慶大を蹴落とした昨年の華麗な姿は、今の大東大には無い。

「今年は例年のようなチーム作りが出来ていない。大東は伝統的に得点を取る選手がいたんですけど、今年はそれがいない。インサイドも7番(今井)、9番(石原)が頑張ってるけど、例年の強さ、確実性が無い。だから、我々がきちっと自分達の力を出せば恐い相手じゃないと思ってる」(慶大・佐々木HC)

ただ、一点だけポイントになりそうなことがある。それは大東大を牽引するキャプテンである#41山本の存在だ。この日は高確率の3Pを中心に28得点を記録。昨年の4年生中心のチームでもスタメンガード竹野と阿部に遜色ない活躍を見せていただけに、この活躍はフロックではないだろう。この点については、大東大の西尾コーチも目を細める。

「今季はエドワード(#41山本)がすごく成長したと思う。リーグの序盤はシックスマンでの起用が多かったんですが、彼もそれをちゃんと受け入れて僕ともしっかりコミュニケーションを取って、最後はプレーで示していたと思います。もともとは長くプレーしていてシックスマン起用でそれも少なくなったけど、プレーヤーとしてかなり成長したと思うんで、僕はそれは後悔しているとかじゃなくて、逆にそういう形でエドワードが成長したのは良かったと思います」

#41山本とマッチアップするのは、同じポジションの#16二ノ宮(2年・京北)だろう。その二ノ宮は「今年は4年生になって自覚が出てると思う。それなりにやってくると思うんで一週間準備して、抑えられるだけ抑えたいです」と話す。

しかし、それと同時にチームには山本以外のところで伸びていない現実がのしかかる。若い選手も多く、西尾コーチは「喜怒哀楽が激しくて、良い時もあれば悪い時もある」と話すところからも、不安定なチーム状態が分かる。
以上を踏まえれば、慶大は#41山本を抑えれば勝利に大きく近づけると言って良いだろう。

無難に連勝した慶大。いざ、決戦。

一方、この週慶大は早大と対戦。2日とも良い内容を見せてきっちり勝利し、最終成績を12勝2敗とした。

特筆すべきは日曜日のリーグ最終戦。立ち上がりから猛チャージをかけ、開始4分で14―2とした。持ち味の先行する試合展開が、最後の最後になって最高の形で出た。前日、土曜日のゲーム勝利したため、すでに優勝が決まっていたことも影響して「みんなが集中してディフェンスしたのと、点差がなかなか離れない時にも強気で攻めたことが良い結果になったと思います」(#16二ノ宮)。

それにしても、リーグ戦は綱渡りの連続だった。いきなり国士舘大相手にあわや、という試合展開になり、白鴎大相手にも一つ危ない試合があった。明大に連敗した時には入れ替え戦進出も難しいかと心配が膨らんだ。それでも、終わってみれば納得の出来だったと言える。

「(#10小林)大祐(3年・福岡大附大濠)が本来の力―外のシュートは僕は期待してなくて、期待しているドライブかけたりリバウンドで頑張ったりというのを期待していて―、それが筑波の試合の時から出来るようになった。それでチーム自体がまとまった。あとは、リーグ戦は#4鈴木(4年・仙台二)の貢献が大きいですよ。(土壇場でスティールから同点のレイアップを決めた)国士舘の試合だけじゃなくてね。4年生のキャプテンをチームの中心にして良かった」(佐々木HC)

 慶大が昨年崩れたのは、4年生が怪我で離脱したのが大きかった。入れ替え戦で満足にプレーできたのは副キャプテン(当時)の小松だけ。小松は勝負の入れ替え戦3戦目でファールアウトとなった。下級生だけでは4年生中心の大東大を抑えられる力は無かった。今回は立場が逆である。去年辛酸をなめた選手たちは2部の環境で鍛えられた。翻って大東大は若いチーム。経験に乏しく、慶大の優位は揺るがない。

泣いても笑っても、入れ替え戦の結果が全て。「勝利至上」という今年のテーマを、最後まで貫徹したいところだ。

最後に一つだけ、言いたいことがある。

「早慶戦って言うけど、あんまり人が入ってないね」

土曜日の慶大と早大の対戦前、あるチームの選手がこう呟いていた。直前の筑波大と明大の試合が、入れ替え戦行きのもう一枚の切符をかけたものだったこともあり、大勢の立ち見が出る盛況振りだった。それと比べれば、早慶戦とは言えどほとんど消化試合となったカードを見る観衆は少ないし、緊張感も乏しい。

しかし、試合は筑波大と明大の死闘を越える盛り上がりを見せた。とはいっても、私が言いたいのはゲームそのものの内容ではない。試合を見る観客のことである。

「○○を出せ!」
「ディフェンスしっかりやれ!」
「審判!ちゃんと見ろ!今のはファールだ!」
「バスケットになってねえぞ!」

声を荒げるのは、ほとんどが慶大のOBである。かなりポジティブな言い方をすれば早慶戦の伝統を思わせる光景であるが、客観的に見ればただの酷い野次でしかない。慶大のある選手は「確かにうるさい。でも、正直言って無視している」と意に介さない。しかし、聞いていて不愉快極まりない。バスケットだけでなく、とにかく慶大体育会のスポーツの試合での野次は、時に耳をふさぎたくなるほどすさまじいものがある。これでは「伝統」も汚れるばかりである。

一部の観客に対する観戦態度の改善を、早急に求めたい。いくら良いバスケをしていてもこのままでは、選手やスタッフが意図しない形でファンが乖離していきかねない。

(2008年10月21日更新)

文・羽原隆森
写真・羽原隆森、阪本梨紗子
取材・羽原隆森、阪本梨紗子、湯浅寛、金武幸宏