来年4月1日、慶應義塾大学は共立薬科大学と合併し、新たに慶應義塾大学薬学部が設立される。一方で、共立薬科大学は80年近く続いたその歴史に幕を閉じる。「共立薬科大学の名前がなくなるのは寂しい」。共薬大の学生、共薬生の多くが、合併による大学名の消失を嘆いている。大学への愛着を強く感じているのは主に3、4年生だ。大学生活を送った共薬大の名前がなくなることに、上級生は抵抗感がある。大学名の消失を惜しむ声が多いのは事実だが、合併に反対する意見は極めて少ない。むしろ、合併を歓迎する声が大多数だ。特に賛成しているのは共薬大の1年生である。
共薬大と慶大の合併は、06年11月に発表された。報道を聞いた薬学部志望者の多数が共薬大を志願し、今年度の志願者数は例年より急増。その結果、共薬大の教室の許容量を越え、受験日には慶大に会場を借りた。
共薬大1年生の多数は、慶大との合併を知りつつ入学した人々だ。共薬大で過ごした時間も他学年より少なく、合併への抵抗感は少ない。
合併を歓迎する理由は様々だ。最も多いのは、「共薬大と違い、慶大の名前は有名だから」や「慶大なら、就職活動の時に有利になる」。『慶應義塾』を一種のブランドとして受け入れる傾向が強い。
慶應のブランド力に期待する中でも、興味深い意見がある。「現在、共薬大は私大の薬学部トップとは言えない。しかし慶應のブランドで、トップに躍り出る可能性がある。結果、より高度な薬学研究の場に発展するのではないか」。合併による研究や学習環境の発展を期待しているようだ。
合併に期待することとして学習環境を挙げた学生も多い。慶大との合併で、共薬大は総合大学としての薬学部に生まれ変わる。総合大学の利点は、他学部の授業の受講が可能なこと。「他学部の勉強で視野が広がる」と多くの学生が語った。「一般教養の幅が広がるのは楽しみだが、1年の時に落とした単位を取りに、日吉に通うのは大変」と答える学生もいた。看護医療学部や医学部との交流にも期待がかかる。中でも、病院施設を使用した実習を待ち望む学生が多い。
慶應との交流を望む意見は多いものの、共薬生に不安は残る。「慶應の雰囲気に馴染めるのか疑問」
共薬生は学習に対して熱心だ。薬学部の課程上、授業数は多く、学生は滅多に授業を欠席しないため、授業時間中は構内に学生の姿はない。
一方、慶大の学部の多くは、薬学部に比べると授業数が少ない。無断欠席する学生もおり、授業時間中でも構内には多くの学生が見受けられる。
学習姿勢以外に、大学の規模による校風の違いがある。共薬大は学部生の数が836人。慶大に比べ圧倒的に少ない。学部生同士、顔見知りであることが多々ある。職員も多数の学生の顔を把握しており、対応も丁寧だ。
共薬大の雰囲気は、慶大以上に暖かみがある。合併により、双方に戸惑いが生じる可能性は否定できない。
学習姿勢や校風の違いもあり、合併時の混乱は避けられない。しかしとある共薬生は言う。「共薬大の校風はなるべく残したいが、塾生と積極的に交流を行い、良い文化は取り入れたい」。合併を巡る共薬生の本音だ。
共立薬科大学の合併とともに、共薬大の団体への活動補助費が打ち切られる可能性が高い。影響が出るのは、クラブ活動と共薬祭だ。
共薬大のクラブは、慶大のサークルにあたる。慶大と同じく、クラブには学生の大多数が所属する。24のクラブ全てに大学の補助費は支給され、活動費の大半を補助で賄うクラブも多い。
新入生の確保も懸念される。薬学部の1年生は日吉に通うため、共薬大のクラブは来年度から慶大のサークルとともに新入生の勧誘を行う予定だ。だが薬学部の1年生が共薬大のクラブに入るとは限らない。
クラブ活動以上に学生が心配するのは、共薬大の学園祭、共薬祭の存続だ。共薬祭実行委員会の構成は主に1、2年生。来年度以降、薬学部1年は日吉キャンパスで過ごすため、人材確保が困難となる。大学からの補助費が予算の大半を担っていたこともあり、資金確保も大きな課題だ。
共薬生は、合併後も共薬祭の開催を希望している。共薬大で行われたアンケート調査によると、学生の8割が共薬祭の存続を望んでいるという。
この事実を受け、共薬祭実行委員会は来年度以降の共薬祭開催を目指す予定だ。今年度の実行委員長、2年の清水賢一さんは「予算確保など苦労も多いが、2年も1年に協力して開催を目指したい」と話す。来年度の委員長、1年の伊東敏さんは「慶大との交流で、共薬大の中では生まれない新たな意見が出て欲しい」と話した。
共薬大の団体は、合併により新たな境地を迎える。しかし、不安以上に慶大の団体との交流を期待する声は強く聞こえた。