大学教育に及ぼす影響とは
先月11日、都内で日本オープンオンライン教育推進協議会(以下JMOOC)が設立された。2014年度からの講義の提供を予定しており、慶大からは村井純環境情報学部長が開講する予定だ。
そもそもMOOCとは何なのだろうか。JMOOC事務局の岡村氏は、Massive Open Online Coursesの略で、大規模公開オンライン講座のことであると説明する。大学の講義やシラバス、教材などを無償でインターネット上に公開するOCW(Open Course Ware)をさらに発展させたものだ。
公開用に撮影された映像を講義として流し、知識確認のためのテストや課題などもオンライン上で課し、担当講師の定める基準を満たすと修了証が発行される。その修了証を単位として認定する大学や、採用活動の際に特定科目の成績上位者に企業から接触を働きかけるといった動きも出始めている。
現在はアメリカを中心に普及が進んでおり、代表的な提供者であるCourseraでは、講義数は540ほど、利用者数は550万人以上にも上る。日本の大学でも、すでに東大がCourseraでコースを提供、京大がedXへの参加を決定している。
MOOCの利点は、オンライン上で講義を無償で受けることができる点だ。地理的・金銭的・時間的要因で今まで高等教育を受けることが難しかった人も受けられるようになる。そういったさまざまな背景をもつ人と議論を交わすことで、今までの大学の教室内では得られなかった交流が生まれる。
また学生はわからない部分を何回でも聞けるなど、授業への理解度をより深めることができる。そして教員側もデータが容易に集められるため、講義内のわかりづらい部分の把握などが簡単になり、講義の質を上げることができるようになる。
国内導入に向けての課題
「教科書以来の発明」という意見もあるMOOC。大学全入時代と言われて久しい昨今、18歳人口の50%以上が大学進学をする中で、大学の持つ社会的役割は産業界などから変化を常に求められてきた。例えば、大教室での講義の必要性、教員に求められる能力、大学が果たすべき役割など、MOOCの登場は高等教育の在り方自体を根本的に見直すことにもつながる可能性がある。
しかし、MOOCは現在海外でしか展開されていない。それゆえ、講義の多くは日本語を除く諸言語で行われ、多くの日本人にとっては言語的に敷居が高い。そこで発足したのがJMOOCである。
JMOOCの設立に至ったもう一つの背景には、欧米と日本の大学の財政基盤の違いが挙げられる。寄付金・研究開発費により強固な基盤を持つ欧米に比べて、寄付の文化が根付いていない日本の大学の財政基盤は弱く、新たなプラットフォームやシステムの構築に予算をかけることは難しい。しかし海外のMOOCに参加できるのは日本の中でもトップ校だけで、そのほかのMOOCに興味を持つ大学への受け皿がないといった状況があった。
では海外のMOOCとJMOOCの違いは何なのだろうか。大きな違いは日本語で開講されるという言語的問題だけではなく、企業も参加することだ。企業が研修などのコンテンツを公開し学生がそれを履修することで、もしくは、ディスカッションの際の様子が企業に伝わることで、自分の人間性や能力をより良く企業に知ってもらうことができる。面接などの短い時間での自己アピールから、より長い期間をかけて自分を見てもらう就職活動を行うことができるようになる。
3年後に100万人の登録を目指すJMOOC。これからの大学教育にも大きく影響を及ぼす可能性があるだけに今後、各大学がどう関わっていくのかが注目される。 (寺内壮)