木勢翔太さん(総3)

地域活性目指す 協力の証
今夏のオープンキャンパスで来場者に無料配布された慶應の水。濃紺に赤いライン、そして中央にペンの記章が施されたラベルは、見る者に強いインパクトを与える。

慶應義塾は2007年に山梨県及び富士吉田市と連携協定を結び、富士北麓の環境や文化を基軸に、実学の推進と地域活性化のためのさまざまな活動を行ってきた。企画に携わった木勢翔太さん(総3)によると、「せっかく協定を結んでいるのだから、もっと両者の関係を深めたい」という思いからこの取り組みは始まった。

そこで注目したのが水であるが、なぜ他の産品ではなく水を選んだのだろうか。「富士吉田市ではいたる所できれいな水が湧き出ていて、大手ボトリングメーカーが多数存在する。また、この地域は織物やうどんも有名だが、それらもきれいな水があるからこその特徴であり、水は重要な資源だ」と木勢さんは語る。

標高約2000㍍から富士山に浸み込み、約30年を経て湧き出たこの水は、ほのかに甘みを感じるとても美味しい水だ。だが地域の人々は、この水があまりに日常的なものであるため、なかなか特別な価値を見出すことができなかったという。そのギャップを少しでも埋めようと努力したそうだ。

木勢さんは活動をこう振り返る。「地域活性化のための取り組みには何か決まった公式があるわけではない。いろいろな人の意見を聞いて、自分たちの意見を残しつつそれを取り込んでいく柔軟性が大切」。また、いかに継続して多くの情報を集められるか、その粘り強さが自分にとっての収穫だという。

「この水を通して富士吉田市と慶應義塾のつながりだけではなく、社中の絆もより深めることができれば」という思いが込められている慶應の水。現在は窓口販売と通信販売に加え、三田キャンパスでは自動販売機での販売も行われている。売り上げの一部は地域活性化の諸活動を支援する財団に寄付されるほか、塾生の奨学資金にも充てられる。それは、人と人とのつながりを大切にする、長年脈々と受け継がれてきた慶應義塾の文化の表れである。実際、発売以降、さまざまな会議や同窓会で慶應の水が使われているという。

この水を手にする塾生や塾員へのメッセージを伺うと、「富士吉田市で活動している人々のことや、塾生と塾員のつながりを意識して飲んでほしい。この水を買うことこそが協力の証。一人一人がキーパーソンだ」と力強く語った。

どんな水にもそれぞれの物語がある。無色透明だが、目には見えない色がある。慶應の水にはどんな色があるのか、ぜひ一度手に取って確かめてほしい。 (尾崎恵)