今年の夏は猛暑日が続き、各地で観測史上最高気温が記録されるなどいつもよりいっそう暑い夏となった。また、集中豪雨や少雨、竜巻などといった異常気象も多く見られた。今年の夏の猛暑や異常気象の原因とメカニズムについて慶大自然科学研究教育センターの杉本憲彦さん(法学部専任講師)にお話を伺った。 (安田麻里子)

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今年の猛暑の原因は太平洋高気圧とチベット高気圧の勢力が非常に強かったことにある。太平洋高気圧は夏に日本全体を覆う高気圧であり、勢力が強いと気温が上がるといわれている。また、今年の夏は太平洋高気圧の上に、日本列島の西から張り出してくるチベット高気圧が重なりこのような猛暑となった。なぜ今年は太平洋高気圧とチベット高気圧が強かったのか、原因はアジアモンスーン域の海水温度の上昇にあると杉本さんは言う。赤道付近で暖められて上昇した空気が地球規模の対流を作り、日本に下降してくる際に太平洋高気圧となる。下降気流では温度が上昇し雲が消えるために晴天となる。海の温度が高いと、この循環が強くなるために、今年は高気圧が強まったという。またチベットにも同様の高気圧ができるが、高地であるため上空の高気圧となる。この高気圧も活発なモンスーンの対流活動により強化され、日本付近にまで東に勢力を伸ばしてきたことも原因の一つだ。

日本では梅雨の期間中ほとんど雨が降らない「空梅雨」、夏に入ると、日本海側で豪雨となり、関東ではほとんど雨が降らないという事態になった。フランスで初夏に大雪、ドイツやオーストリアでの大雨など、世界中で異常気象が観測された。異常気象が人為的な気候変動によるものなのか、自然本来のブレの範囲内であるかその見極めは難しいが、杉本さんは「この異常気象の連鎖の要因の一つは、大西洋の海水温の上昇による、偏西風の蛇行である」と述べた。そもそも気象庁によれば異常気象とは、「過去30年の気候に対して著しい偏りを示した天候」と定義されており、気候変動がなくとも30年に一度は起こるものであるという。

今夏の猛暑や豪雨を単なる異常気象として片付けるのではなく、さらに考えなければならないことがあるかもしれない。もし本当に気候が変われば食糧難や水不足などさまざまな問題も併発する。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第5次評価報告書案では、人為起源で温暖化が起きている可能性が「極めて高い」(95%以上の確率)との表現が使われた。21世紀中に2度以内の温度上昇にとどめるという目標を掲げているが、実際はそれを上回るようなCO2が排出されている。この夏の異常気象を契機にこのような事実にも目を向けてほしい、と杉本さんはメッセージを送った。