10月4日 vs明治大学 ● 86―96
リーグ戦の舞台は国士舘大の多摩キャンパスに移った。大分涼しくなってきているが、それとは逆にリーグはいよいよ佳境に入る。上位チームは2位以内の入れ替え戦進出圏内を狙って、下位チームは7位以下、3部A上位2チームとの入れ替え戦回避、そして5位以内に与えられるインカレ出場権獲得を目指して、熾烈な戦いに入る。ミスの許されない一つ一つのプレーに選手もスタッフも観客も、具に目を注ぐ。
その中で、慶大の連勝はとうとう8で止まった。相手は明大。最終スコア86―96、10点差。僅差と言えなくもない点差だった。しかし、その点差以上に慶大と明大のチームとしての差が表れた試合だった。
先制は慶大。#12田上(3年・筑紫丘)とのハイローの合わせで#7岩下(2年・芝)がゴール下をねじ込む。直後には#16二ノ宮(2年・京北)が明大#6伊與田を上手くかわしてドライブからのレイアップを沈めた。4―0。幸先の良いスタートだった。
しかし、慶大の流れだった時間はここだけだったと言っていいだろう。開始約1分半まで。直後に明大は#14金丸晃輔のシュートが決まる。さらに#3金丸英悟も続いてすかさず同点とした。慶大は#10小林(3年・福岡大附大濠)がトラベリングを取られ、リバウンドもことごとく明大にキープされてしまう。
「最初に4点取ったところから、僕の感覚と全然合わないんだよね、選手のやっていることが。それは最低、最悪。なんでそういう風になるのか……。『自分で出来る』と思ってるということだと思うけど、チームスポーツはそうじゃない。選手のやっていることと、客観的に見ている僕の感覚とにズレがあった。相当まずい」(佐々木HC)
明大はさらに#6伊與田が決め、本来はインサイドで頑張る#3金丸英が3Pシュート、#14金丸晃はリバウンドシュートと続く。ここで慶大は、#10小林が決めてようやく重いオフェンスの沈黙を破り、明大#14金丸晃の連続ファールを誘った。しかし、明大は#3金丸英が再び3Pを決める。
「自分でもびっくりしたんですけど(笑)、練習でも結構打っていて、試合前も打てていて外れることを考えてなかった。思い切って打ったのがああいう結果につながったのかな、と思います」(#3金丸英)
「岩下君のところに対するアウトサイドで、前半に(金丸)英悟が3本決めたところが大きかったですね」(明大・塚本HC)
リバウンドが弱く、外から射抜かれる。慶大にとっては、絵に描いたような悪循環だ。しかしそれは、分かっていた課題でもある。前週の拓大戦後、岩下は「相手も(自分に対して)ミスマッチになっている分、横の平面の動きで取りに来ると思う。ボックスアウトを怠るとどんなに相手が小さくても取られてしまうので、そういうところをしっかりケアしていきたいと思います」
と話していたが、この日はゴール下のリバウンド争いで相手に押し出される場面もあった。
加えて、拓大戦では成功していた岩下のポストプレーが、この日のオフェンスではあまり見られなかった。「自分は相当プレーしているつもりでも、客観的に見て出来てない。それを言っても『頑張ります』と言うだけで、何を頑張るかが出てこない。練習を毎日やっているのに分からないのは最悪。(ポストプレーは)期待されているプレーなのに。それに最初に大事なシュートを落としているのにリバウンドに行かない。パスミスをした後、そのミスはしょうがないのにリバウンドに行かない。ああいう形で負けた試合はたくさんある」と、佐々木HCは話す。
また、外からのシュートを決められたのはピックアップが遅いためだ。これまでは、ピックアップが遅くても相手が落としてくれたことがあった。しかし、相手はそれより実力的に数段上回る明大。近年はずっと2部にいるチームとは言え、相手のミスは逃さない。結局は、ここ最近の慶大の課題である相手のドライブへのヘルプ意識故にフリーの選手を作ってしまう、という現象が発端だ。
リバウンドと相手のロングシュート。結局この2つが、この試合の全てだった。
#3金丸英の2本目の3P後、明大はファールが多く#3金丸英も1Q残り4分半で2ファールとなり、ベンチに下がらざる終えなくなる。しかし、明大はファールトラブルをつなぐ控え選手も好プレーを見せる。#19田村が岩下をかわしてバックシュートを決めると、#24岩澤も続く。慶大は#10小林が得た3ショットもフリースローを1本しか決められないなど、オフェンスがちぐはぐだった。
「今日は作り方が全然良くなくて、みんな攻め気が強くて中が狭くなって。それでバランスが悪くなったのが原因かな、と」(二ノ宮)
「オフェンスが少し重かったかな。なかなかシュートまで決まらない。なかなかシュートが決まらないというか、同じシュートが決まっても、こっちは一生懸命決めているのに対して、あっちは簡単に決めてるっていう感じだったのが、苦しかったですね」(#4鈴木、4年・仙台二)
慶大は粘った。2Qに入ると徐々に速攻も出てくる。しかし、#7岩下が3秒ルールのバイオレーションを取られると、#4鈴木が#19田村にバスカンを許すなど噛み合わない。3Qも開始直後に慶大は#7岩下がバスカンを得るが、逆にその直後、明大#21川崎に連続でバスカンを奪われる展開。前半で離され、そこからやや修正して敗色モードが濃くなっていく、という展開にならなかった点に評価する余地があるかもしれない。しかし、勝てないと全く意味が無いし、慶大が粘って点差をつめる度にシュートを沈めた明大については、もっと評価出来るということだ。そういう意味では、既に前半の時点で勝負はついていたと言えるだろう。慶大はビハインドをつめるも3Q残り2分半で6点差にするのが精一杯。その後点差は大体7~15点差を推移するのみ。最後は残り1分半からファールゲームを仕掛けるが、流れを掴んでいる明大は淡々とフリースローを決める。最後まで何も起きないまま、全勝の慶大に土がついた。
明大は前週、国士舘大に2敗。オフェンスは#14金丸晃に集約され、リバウンドも相手にことごとく奪われる内容だった。
それが、この日は絶対的エース#14金丸晃は20点と、普段の数字より大幅に下回ったが、#21川崎が25点、#3金丸英が16点などで4人が二桁得点を記録。オフェンス時のバランスが格段に修正された。リバウンドは慶大が45本で、明大の42本を上回った。しかし、特に要所でのリバウンドを抑えたのは明大だった。オフェンスリバウンドを取った後のセカンドチャンスの生かし方も、明大が慶大を上回った。「先行逃げ切り」を志向する慶大のお株を奪う展開である。
「慶應は飛び込んでリバウンドを取りにくるチームなので、シュートの後のリバウンドをみんなで取るという意識でやって、それが出来たので良かったです」(#3金丸英)
205センチの岩下にリバウンドで勝る選手はいない。しかし、チームとしてリバウンドを取る意識。その意識、精神力の点で、慶大は明大に負けていたと感じる。
「国士舘に2つ負けたのは非常に残念でしたけど、それを選手が良く切り替えて。選手が良くやったと思います。コーチ冥利に尽きるというか、夏場から本当にここに向けて、もっと言えば去年のリーグ戦で大東文化に負けたときからやってきて、それを本当にみんなが理解してやってきた結果が今日の勝利だと思います」(塚本HC)
かつては1部に所属し、タイトルを何度も手にしてきた明大もここ最近は2部中位に位置し、入れ替え戦にすら進めないという状況が続いている。去年のリーグ戦では塚本HCが言及した大東大に連敗し、星の差1つで入れ替え戦のチケットを手に入れることが出来なかった。それも、大東大1戦目は1点差ゲーム。だからこそ、今年にかける思いは強い。
「慶應は強い。でも、チャレンジャーの気持ちで、明日のゲームも取りたいです」(塚本HC)
「国士舘に負けて、結構みんな落ち込んだんですけど、逆に失うものが無くなって。チャレンジャーでやろうっていう気持ちをみんなで意思統一したので、明日以降も一戦一戦やるだけです」(#3金丸英)
「いつもは15点くらい取る#21川崎に今日相当やられた分と、うちのイージーミスを直して計算すれば、うちが勝てる、はず。明日はさっき言った選手とベンチとの感覚的なズレを、どれだけ戻せるか」(佐々木HC)
「試合後にミーティングをして、ベンチとコート内の連携が悪かった面はそれなりに解決したので、明日はしっかり出来ると思います。勝たなきゃいけないんで、最初から全力で行きたいです」(#16二ノ宮)
似たような状況があった。今年春のトーナメントの終盤、慶大はこの日とほとんど同じような内容で準決勝・法政大戦に敗北。しかし、翌日の3位決定戦・筑波大戦では前日の敗戦から切り替えに成功。94―70で完勝した。この時は「昨日の試合から切り替えて良い戦い方で勝てた。みんなが良い表情でプレーしていて、こういう結果になったのかな」と#16二ノ宮がコメントしている。
ただ、今は「本番」のリーグ戦。トーナメントとは違い、翌日も同じ相手と対戦する。手の内を知っている相手との絶対に負けられない勝負となる。プレッシャーも大きい。
言わば、「練習期間」であった春の再現が出来るか。慶大の真価が問われる時が来た。
(2008年10月6日更新)
取材・羽原隆森、阪本梨紗子