昨年12月に安倍晋三首相は、経済回復と長期のデフレ脱却を目指し、アベノミクスと呼ばれる一連の経済政策を打ち出した。具体的には金融緩和、財政出動、成長戦略が3本の矢として軸になっている。これにより、2、3カ月先の景況感を示す先行き判断指数は過去最高を更新した。多くの人々が期待を寄せるアベノミクスと今後の日本経済の展望について、経済学部の塩澤修平教授にお話を伺った。 (矢野将行)

アベノミクス再考
まず今回のアベノミクスは「経済活動における期待の重要性を改めて実証した」と塩澤教授は話す。経済活動は人々が将来をどう捉えるかということに依存するが、今回は安倍政権に人々が期待を寄せ、実生活で結果が現れ始めていることが大きいという。
今後もアベノミクスの効果を持続させるためには、3本の矢のひとつである民間投資を喚起する成長戦略で実績を残し、人々が自分たちの生活が変わったと実感できるかどうかがポイントだという。民間が動き出すことで、賃金も上がるという良い循環が生まれることを期待したい。

人の気持ちが経済を左右
次に日本経済の現状と展望について。経済は「病は気から」ということわざ同様、人々の気持ちの持ち方に左右される部分が多い。現在の日本経済が抱えている不況という「社会の病」を治すために塩澤教授は「自信を持って人生を楽しむこと」が大切だとし、広義の「遊びのすすめ」を提案する。ちなみに教授のゼミは「よく学び、よく遊べ」をモットーに活動をしているそうだ。例えば休日に遊ぶことが結果として他人の仕事を作り出し、経済の活性化につながる。
政府がやるべきことは、最低限の社会保障制度を整え、民間では負いきれないリスクを負い、将来の不安を解消することだ。日本社会は教育水準が高く、治安の良さといった基礎体力や潜在能力はあるが、バブル崩壊後から「なかなか気分を変えられなかった」ことが有効需要不足につながり、不況に陥った。 「合成の誤謬」という経済学の用語がある。個々の人間の行動が全体として逆の結果をもたらす場合があるという意味だ。例えば不況の際に将来の不安から皆が貯蓄を増やそうとしたが、結果的に有効需要不足による景気悪化で貯蓄が減る、といった事態が起きた。このように、各個人のもくろみ通りに物事を運べないのが経済の不思議な点である。
不況の悪循環を抜け出すためには需要を増やすことが必要であり、人々の購買欲をどれだけ高めることができるかが鍵となる。その点では人々の気分を変えようとする姿勢が見られるアベノミクスは評価できる。
どこか遠いところで経済は動いているような気がするが、意外にも私たちひとりひとりの考えや行動と密接な関係にある。大げさな言い方かもしれないが、日本人としての誇りと希望を持つことがどの経済政策よりも一番効果的な、経済再建への特効薬なのだろう。