古い書物が並ぶ斯道文庫内の書庫

慶應義塾大学三田キャンパス東門を入ってすぐ、図書館旧館の4階。扉を開くと、和漢の古い書物がたくさん並んでいた。

慶大附属研究所である斯道文庫。ここには日本で著述された書物である国書と中国の書物である漢籍が所蔵されている。日本国内や海外にある書物の現地調査、マイクロフィルム撮影による収集、書誌学的研究のほか、情報を公開するといった図書館としての機能もある。

文庫長(所長)である山本英史文学部教授によると、「斯道」とは中国の古典に由来する言葉で、「この道」「仁義の道」のことをいう。斯道文庫はもともと九州の財団法人であったが、戦後存続が困難になり書籍を慶大に預け、後に慶大創立100周年を機にすべての書物を寄贈した。こうして慶大に斯道文庫が設立され、その他の寄贈や書肆からの購入により、当初約7万冊だった蔵書は現在約16万冊になっている。

「本とはまさにタイムマシン」

斯道文庫では書誌学の研究を行っている。ある本がどこでどのようにできたのかを分析し、より正確な情報を現在に伝えることが目的だ。紙の質や印刷の字体を調べ、情報がより正確なものを選別し、質の高い資料を求める。学問は何事も知識の蓄積である書物を読むことから始まるので、書誌学は学問研究の基礎となる学問なのである。

同じ蔵書施設として、メディアセンターである総合図書館と斯道文庫の違いについても伺った。

現在の日本の多くの図書館では、西洋から伝わってきたやり方で書物を分類している。一方、中国の古典籍の場合、四部分類という全く違った方法が伝統的に採用されてきた。そのため、それらを西洋式の分類方法を使用している総合図書館の蔵書と一緒にしてしまうと、かえって不便になるというのがメディアセンターと斯道文庫を分けている大きな理由である。また、和綴本と洋装本とでは本の取り扱い方法もおのずと異なる。これも斯道文庫を独立させている理由の一つとなっている。

「本というもの、文字によって伝えられたものは過去を知るための大きな手がかりです。本を通してでしかわからない過去のことは多くあります。現在にそれを伝えている本とはまさにタイムマシンです。それゆえ本はとても大切なものなのです」と語る山本教授。 ここでしか出会うことのできない貴重な過去の資料が三田キャンパスの片隅にあった。      (柳井あおい)