増野匡彦薬学部長(左)と芝学友会会長の外山太士さん(右)
薬学部性の実習の様子

共立薬科大との合併によって2008年に開設された慶大薬学部。開設から5年が経った今、現在の学部教育の特徴や、学部生の生活を取材した。

学部連携で教育の質を深化

初めに増野匡彦薬学部長に薬学部の教育についてお話を伺った。

慶大薬学部は、主に薬剤師養成を目的とする6年制の薬学科と、創薬研究者などの養成を目的とした4年制の薬科学科を有する。多くの私立大学が薬学科のみの設置であるのに対し、慶大には両方の学科がそろう。増野学部長は「いい薬を作っても使い方を間違えれば副作用が出てしまう」と述べ、薬剤師と研究者の両方の養成が必須で、共に学ぶことが重要と説明する。

では共立薬科大が慶大と合併した結果、どのような教育が可能になったのか。

まず薬学科については、医療系3学部の合同教育を慶大の医学部、看護医療学部と連携してできるようになったことが挙げられる。この合同教育では、3学部の学生がグループ別でのディスカッションや発表を通し、チーム医療の在り方を学ぶことができる。この教育を経て学生同士の交流が深まり、昨年度あるグループは、震災後の医療支援活動について調べて本を発表したという。このような学生の主体的参加が合同教育の質を深めている。

さらに、慶大病院での実習が大きく増えたことは薬学科の強みとなった。実習では薬剤部だけでなくさまざまな診療科と協力することで、チーム医療の経験を積むことができる。

薬科学科については、今年度から始まった慶大大学院経営管理研究科とのジョイントディグリー制度が挙げられる。これは、薬学部を卒業後、経営管理研究科に進み、2年間でMBA(経営学修士)を取った後薬学研究科に入学し、最短1年間で薬科学の修士を取得できる制度だ。通常2年かかる薬科学の修士を1年で取れれば最短3年でMBAと薬科学修士という二つの資格の取得が可能になる。

増野学部長は、この制度の狙いを「薬学研究と経営の両方に精通している人材の育成のため」と話し、薬学部からも経営のトップを送り出せるようにと考えている。

薬学部の求める人材について、「学力だけでなく、医療に携わるという意識、体力が必要」と増野学部長は述べた。薬学部は、塾内の他学部などとの連携を強みに着実に進歩している。

開かれた環境への試み

次に、外山太士さん(薬4)に薬学部の学生生活を伺った。外山さんは芝学友会という薬学部内の部活や行事を統括する組織の会長を務めている。

薬学部生は授業が多く、平日の午前から夕方まで必ず埋まってしまう。また1年次に在籍した日吉キャンパスに比べて、2年から通うことになる芝共立キャンパスはビルの中にあり、出会う人も薬学部生のみだ。そのため学生たちの仲はいいが、閉鎖的な環境になりがちだ。

外山さんは芝学友会の政策として、「総合大学としてより開放的にしていくこと」を掲げ、他学部や他大学との交流を大事にしている。例えば、学園祭に人を呼びこんだり、部活動では試合後に他大学と練習や食事をして色々な話を聞いたりして交流を図っている。

外山さん自身も、薬学部テニス部のキャプテンや学園祭の実行委員の仕事を通して、先輩や後輩と共に充実した日々を過ごしてきた。「自分がテニス部で得た経験を他の学生にもしてほしい」と話す外山さん。勉強だけをするのではなく、部やサークルに入って仲間と学生生活を楽しんでほしいと願っている。そのために芝学友会は、不健全な団体が出ないようにサークルなどを管理する立場にある。

また学友会では、学生による学生のための教育が必要だと考え、薬就塾という試みのなかで定期的に社会スキルなどを学ぶための講演会を開くことも計画している。教育者側からだけでなく、学生側からも薬学部をよりよくしていこうという試みにも期待である。

長い伝統をもつ、共立薬科大時代からのアットホームな雰囲気が印象的な薬学部。慶大の薬学部としてはまだ5年しか経っていないが、よい伝統を受け継ぎながら新たな伝統を作ろうとする心意気が感じられた。     (長屋文太)