想食系幹事が提案する食事会コースの一例
昨年度、慶大をはじめとした各大学の学生が飲酒事故によって命を落とした。近年は数十年前と比較すると激しい飲ませ合いなどはかなり減ったといわれる。しかし、最近になって飲酒による事故が学生の間で目立つようになってきた。
なぜこのような風潮が再燃し始めたのかはわからない。しかし、人命に関わる事故が発生している以上、我々も黙って見過ごせる問題ではないと感じている。

社会人にしろ学生にしろ、お酒を飲む目的というのは「人とのコミュニケーションを楽しむ」という点にあるだろう。しかし、我々は本当にお酒を通してでしか人との交流を楽しむことができないのだろうか。その問いかけに対して「お酒がなくともおいしい食事に囲まれれば、わたしたちは楽しい時間を過ごすことができる」と話すのは学生団体「想食系幹事」の代表を務める東成樹さん(東京大学院1年)である。

一言が生み出す新たな動き

「想食系幹事」とは飲み会が中心となっている大学生の打ち上げなどに対して、「おいしい料理を食べることができる打ち上げコース」の選択肢を提供しようと活動を行っている団体だ。「飲み放題で出てくる少ない料理のために3000円ぐらいを払うなら、その価格でもっとおいしい料理を食べられるコースを紹介したい」と、団体のメンバーが実際に足を運んでおいしいと思った店だけを選び、食事会コースをHPで掲載している。

「想食系幹事」が誕生したきっかけは「打ち上げ=飲み会という形に疑問を感じた」と言う東さんが、SNS上に「美味しい食事で楽しむ会を開くのはどうか」と意見を投げかけたことだった。「どんな批判を周囲から受けるか怖かった」と振り返る東さんだが、発した意見に対して「料理がおいしかったらそれだけでも盛り上がれる」といった賛同の意見が多く集まった。さらにその意見を形にしていこうと、丁志騰さん(理4)や黒阪美央さん(理3)など多くの協力者とともに「想食系幹事」を立ち上げた。

団体の思いを熱く語る丁さん(左)、東さん(中央)、黒阪さん(右)

多くの人たちの中で「当たり前」と考えられている社会通念に対して批判を投げかけることは、とても勇気が必要な行動だ。だが、東さんが勇気を振り絞って放った一言が同じ思いを持っていた仲間を呼び込み、「想食系幹事」という一つの大きな形を作り上げることにつながった。

「想食系幹事」が20大学において調べたアンケートによると、「打ち上げに行くなら、飲み放題よりもお酒が一、二杯ほどついたぐらいの食事会のほうがいい」という声が回答者全体の72%にものぼったそうだ。飲み放題という形に疑問を感じている人も実際のところ多く存在していたのである。これを機に、飲み放題にとらわれない打ち上げの楽しみ方をそれぞれが考え直してみてほしい。

「アラブの春」とはまた違うが、社会通念に対する疑問の一声から新たな動きを生み出すことは学生でも可能なことなのだ。「おかしい」と感じることには勇気を出して発言していく。飲酒事故防止のためだけでなく、さまざまなことに通用する力なのではないか。         (小林知弘)

想食系幹事のHPURLはhttp://sousyokukeikanzi .wix.com/public