先日発生した武装勢力によるアルジェリアでの人質拘束事件をはじめ、イスラーム社会の治安は安定しないままである。今回はその要因を、イスラーム法を専門とする慶大総合政策学部の奥田敦教授に伺った。
一部のイスラーム教徒によるテロリズムを、世界の富の配分の不平等さに対する最も過激な形の異議申し立てではないかと語る奥田教授。
しかし、重要なのはテロリストらの行為はイスラーム的にも間違っているということである。クルアーンの教えでは、「罪のない人を1人殺せば全人類を殺したのと同じになる」と記されており、テロリストらもその教えを共有しているはずである。「テロリストらを厳しく罰するべきだが、どの社会にも犯罪者はいる。イスラーム全体やそれ自体が過激なのではないということを認識してほしい」と説明する。
大多数のイスラーム教徒は、世界の平和を願い、新たなイスラーム教を準備しようとしている段階だ。なぜなら国家の力による抑え込みの統治が弱まりつつある時代では、人間の生きる指針を宗教の信仰によって得る必要が増しているからだ。
例えば、イスラーム教では、唯一神アッラーの豊かさに助けてもらわなければ生きていけないと自覚することで、自分や周囲を責めずに生きることができる。
そのためには、イスラーム教育の刷新が求められていると奥田教授は指摘する。アッラーがどういう存在であり、政治や経済とどう関わっているか知ることで、時代に柔軟な対応をとること。これが健全なイスラームを育てるために重要なのだ。
続いて、アルジェリアでの事件では日本人が被害に巻き込まれたが、イスラーム圏からの日本はどう見えているのか。
奥田教授によると、イスラーム教徒にとって日本は素晴らしい国なのだという。その理由は、日本人の暮らしや社会における倫理面にある。たとえば、日本では列に並んで待つ行為は当たり前だが、イスラーム圏では教典で教えられているのにできていない。なぜ教義がないのに倫理的な行動をとれるのかイスラームの人々にとってはとても不思議であるそうだ。
その反面、日本人イスラーム教徒である奥田教授は、「日本人にはぶれない芯がなく、時流に流される。自信を持って生きていける正しい信仰が必要だ」と指摘する。
最後に、日本人がイスラームを理解するにあたっては、伝え聞いたものやイスラームの現実世界を知るだけでなく、教えとしてのイスラームを知る必要がある。
イスラームでは、クルアーンやムハンマドの言行を参照することを、人々は生き方の糧にしている。そこから、私たち日本人にとっても現実世界からは気付けない、イスラームにおける社会の進む方向や人々の願いを知ることができるだろう。    (長屋文太)