今回お話を伺ったのは情報工学科の大槻知明教授だ。通信技術が主な研究テーマで、電気電子技術分野で最大規模の学会であるIEEEのOutstanding Young Research Awardをはじめとした数々の賞を受賞してきている。
小さな頃、世界各国のラジオ局などから飛んでくる放送電波を捕まえ、それを聞くことが趣味であった大槻教授。現代のようにインターネットも整備されておらず、世界との距離が遠かった時代。スピーカーから流れてくる各国のラジオ放送を聴くことで世界を肌身で感じて楽しんでいたと同時に、今の研究分野となっている「通信技術」へと興味を持つきっかけとなった。
世界の留学生が集まる研究室
近年スマートフォンの普及により電波の混雑が問題視されている。その中でいかに高速な通信を行うか、ということが大槻教授の研究テーマである。研究している内容の一つが「自律分散」。「自律分散」とは、一つひとつの通信局が自分たちで周りの電波の状況を見て、最適な電力や周波数を自己判断することでもっと効率的な電波網を敷くことができるというものだ。
電波を活用できるのは通信だけではない。大槻教授は電波を利用して、一人暮らしの高齢者などを見守るシステムを開発している。このシステムは部屋に電波を発生させ、その伝搬状況から、部屋の中の人の状態や位置を把握するものだ。超音波の反射で周囲の物体の位置を察知しているコウモリをイメージすると仕組みがわかりやすいだろう。人が倒れたなどの状態もわかる精度のもので、高齢者の異常な状態をすぐに察知することができる。カメラを設置するのでは、どうしてもカメラの存在が、誰かに見られているというストレスを中の人に与えてしまうのだが、このシステムではそのようなカメラのデメリットをなくしている。
大槻教授の目指していく未来は、自分の好きな「通信技術」によるアプローチで安全安心な社会を形成していくことだ。また、企業の研究者ではなく、大学教員であるという立場から、社会に有用な人材を育成していくことに力を入れていると話す。大学の国際センター副所長も務める大槻教授の研究室を覗かせてもらうと、半分近くの学生が欧州、東南アジア、アフリカ、南米といった世界各地からの留学生だった。「国籍、人種、性別などを問わず、世界で貢献したいという人に入ってもらっている」という教授の考えが如実に表れていた。
自身の好きな研究で社会に貢献していくだけでなく、人材育成の面からよりよい未来を創ろうとする点から、教育者としての強い思いが伺えた。
(小林知弘)