コーチのげきが飛ぶ中、吉田麻里絵選手(総3)は目にも止まらぬ速さでリンクを駆け抜ける。「氷上の競輪」とも称されるショートトラックスピードスケート。彼女は全日本チームの強化選手に選ばれ、1000分の1を争う熾烈な戦いの中心にいる。
昨季に引き続き、今季も日本代表としてワールドカップに挑んでいる。「毎試合、成長できた点も課題も見つかる。まだシーズン半ばなので、次へ次へと活かして常に進化していきたい」。第3戦を終え1500㍍総合10位が最高という結果については、「もっともっと上を目指さなくては」と振り返った。来年の世界大会への切符がかかる全日本選手権で今までの集大成を誓う。
最大のライバルは自分自身
今季力を入れて取り組んでいるのは、一番の課題であるスタートダッシュだ。「世界のトップ選手とは根本的な体のつくりから違う。その差を埋めるために体力とスプリント力の強化にも重点を置いている」。いつか世界に通用する武器を手に入れるべく、苦手な練習メニューも積極的にこなす。それは、最大のライバルである自分自身との闘いでもあるそうだ。
スケート一家に生まれ、小さい頃から競技生活を続ける彼女にとって、この競技の醍醐味は「頭脳プレー」だ。「レース展開が何通りもあって、心理的な駆け引きやコーチとのコンタクトが楽しい」
しかし、実は高校3年のシーズンを最後に辞めようと考えていた。理由は「大学では練習で犠牲にしていた勉強に力を入れたかった」。ところが、最後となるはずだったシーズンでJOCジュニアオリンピックカップの3連覇を達成する。「優勝した瞬間、続けようと決心した。まさにターニングポイントとなった試合」。海外遠征は調整に3週間も必要とするため学業との両立は「正直とても大変」。それでも、「スポーツだけがとりえの人間にはなりたくない」と意欲は失っていない。
来年は競技面だけでなく、「人としても一回りもふた回りも成長する1年にしたい」と語る吉田選手。人間的な成長の支えにもなってくれるコーチに感謝していると話し、「部活仲間がいるからこそ、安心して世界と戦える。両親を含め、感謝したい相手がいっぱい」と微笑んだ。
最終的な目標を尋ねると、「五輪出場にとどめてしまうと出場までたどり着けないと思うので、その上を目標にしたい」と夜空を見上げた。日本期待の星は、大舞台への階段を着実に上っている。
(鈴木悠希子)