「相互に得することであれば、柔軟に引き受けるっていう時代になってるわけ」。経済新人会の三田祭講演会に登壇する理由を、自著の宣伝につながるから、と持ち味の明快な語り口でばっさり。元マイクロソフト株式会社代表取締役であり、「スティーブ・ジョブズに憧れるな」「就活に『日経』はいらない」など型破りな主張で人を惹きつける成毛眞氏が、三田祭にやってくる。
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成毛氏の口から飛び出す割り切った言葉のひとつひとつは、自身の豊富なビジネス経験によるものだ。しかし、仕事や就職に対する考え方はずばり、「テキトー」。現在の活躍に影響した大学時代の経験も、「ないね」と一蹴。アルバイトに打ち込み、勉強は全くしていなかったという。
卒業後、知人のつてを頼り一発面接で合格し入社。「自動車の重要なクラッチプレート作ってて、すごい面白い会社だったんだよね」と振り返るが、3年目の転勤を機に転職。「(転勤先であった)大阪が嫌いでね」
最先端を生きるには目標を持たないこと
その後出版社を経て、株式会社マイクロソフトへ。代表取締役にまで登りつめたが、「飽きた」の一言で退職。次に何をするかも考えていなかったと言うが、間もなく自身の会社を設立、多くのことに挑戦し実績を残してきた。「最初からマイクロソフトなんか知りもしなかったし、転職するときも知らなかったし、就活もしなかった。やったことはただ一つ、『大阪が嫌いだからやめた』っていうだけ」と一切の予定調和はない。「目標があると難しい」が成毛流だ。目標を立ててしまうと変化し続けられないのだという。「『明日これやったら面白いな』っていうことをやる、だからどんどん変化する」。時代の最先端にいるために「目標を持たない」ことが、これからの会社や人の生き方として重要だと語る。
独自の視点で著したビジネス書で世の中を斬ってきた成毛氏。もともと本が好きで、書斎の床が抜けるのではないかというほど膨大な量の書物を読みこなしてきた自身だが、ビジネス書は全く読まないという。
そんな成毛氏が生み出す著作の狙いは、「多くのビジネス書や自己啓発書が主張することの正反対」を伝えること。「『逆』を言う人がいないと、社会って成立しないんだよね」
あらゆる会社が社内公用語を英語にした時には「英語はいらない」と主張した。しかし、多くの人に自著の通りに実行してほしいという考えは毛頭ない。「あまのじゃくな、マイナーな人たちにはげましを与えたい」と意気込む。
厳選した本を紹介していることで注目を集める書評サイトの代表も務める成毛氏がすすめる、大学生が読むべき本は「壮大な仮説を立てて、それを検証する本」だという。地質学者により「ノアの箱舟伝説」が実在したできごとであったと示されるまでを描いた『ノアの洪水』はイチオシだ。文系の学生大学では学べない「壮大な仮説」を立てることは、ビジネスの場面で役立つと熱く語ってくれた。
最近の塾生は「まじめ」になり、「なめてる感がない」と実感するという成毛氏。「もっと世の中なめて生きて行け!」時代の最先端を進み続ける鋭い言葉が、三田の山に、塾生の心に響くに違いない。 (池田尚美)