ハーバード大学特別功労教授ジョセフ・ナイ氏への名誉博士称号授与式及び記念講演会が先月20日に三田キャンパスで行われた。
今回の名誉博士称号授与は、ナイ氏の冷戦後の日米関係の進展に対する多大なる貢献と、学術と教育での国内外を問わない傑出した功績を表したもの。
ナイ氏は国務省副次官、国家情報会議議長などの政府高官を歴任したアメリカを代表する世界的な国際政治学者。国際政治で既存の概念である国の軍事力などの「ハード・パワー」に対して、政治的・文化的影響力など正当性を示す力としての「ソフト・パワー」という概念を考案し、その両面から国際政治を論じた。著書である『国際紛争―理論と歴史』は翻訳され、日本の多くの大学で使われている。
授与式では国分良成法学部長が推薦文を朗読した後に、清家篤塾長が名誉学位記の授与と式辞を行い、ナイ氏が挨拶を述べた。
閉式後に行われた記念講演会では、”The United States, Japan, and China”と題し今後の日米中関係をテーマに講演。質疑応答も行われ、内向き志向による日本からの海外留学の減少に対し、国内で満足せずに異文化にもっと触れるべきだと語った。
講演会場の北館ホール前では開講1時間前から聴講を求める学生の列ができ、会場に入りきれなかった学生は別室のモニターで聴講した。
講演会には、国際協力機構(JICA)理事長の緒方貞子氏、ルース駐日大使らも聴講に訪れた。
「堅固な日米同盟を」
◇講演要旨
今世紀に入って、日本の外交の最も重大な関心事は、中国の台頭である。今年中には、国内総生産(GDP)で「日中逆転」が起こることは確実視されている。
過去の歴史において、新たな勢力の拡大は、国際情勢を不安定なものにしてきた。今回も、中国の台頭を危惧する様々な憶測が飛んでいる。しかし、我々が注視しなければならないのは、アメリカと中国には、軍事力やソフトパワーに歴然たる差があるという事実である。誇張された恐怖や予測を避けることが、将来の国際情勢の安定につながる。
日米中の三角関係は、東アジアの繁栄と安定の鍵を握っている。そこで大切なのは、国境を越えた共通の課題に3国が取り組むことだ。特に環境問題の分野では、日本の活躍が期待される。
アメリカは、15年前から橋本・クリントン日米両首脳による「日米安保共同宣言」を軸として東アジアに関わってきた。今後も日米安保は、重要な条約としてあり続けるし、アジアにおける日米外交の確固たる基盤を提供してくれるであろう。
安保改定50周年の節目となった今年、普天間基地移設問題といった難解な問題にも直面している。しかし、日米中の良好な関係を築くためには、堅固な日米同盟が求められることを確認しなければならない。