「デジタルえほん」と聞いて、どんなものを思い浮かべるだろう。紙の絵本が電子化して、音が出たり動いたりするものだろうか。従来はそのようなものが中心だった。しかし最近では、最新技術を導入した、新しいタイプのデジタルえほんが注目を集めている。
「現実世界との融合型が生まれている」と話すのは、NPO法人CANVAS理事長で慶應義塾大学院准教授の石戸奈々子氏だ。2011年からデジタルえほんの開発と普及に力を注いできた。
「tap*rapフォトしりとり」は石戸氏等が開発したアプリの一つ。描いた絵や身の回りにあるものを写真撮影し、それが何であるのか自分の声を吹き込む。10枚ほど集めると、写真版の絵しりとりが完成するというものだ。再生して遊ぶことができ、楽しみながら自然と言葉を覚えられる。
石戸氏によると、「デジタルえほん」と一口に言っても多種多様。ストーリーが決められていないものや、ページの概念がないものまである。さまざまなデジタル機器を利用した子供向けの表現を「デジタルえほん」として定義しており、特に最近では「どこまでを指すか境界線があいまいになってきた」と指摘する。
現在のところ、500円以下のアプリとして販売しているものが主流だ。海外を中心に市場は少しずつ成長している。
拡張現実(AR)を利用したアプリもあると、デンマークのデジタルえほんを紹介してくれた。タブレットを持ち上げると空の絵が、下へ降ろすと地面の絵が画面上に表示され、絵本の世界を360度楽しめるというもの。ARのモードに変えると、 背景がカメラを通して目前の風景に変わり、絵本の主人公が重なって表示される。現実世界で物語が展開されていくという、なんとも不思議な感覚だ。
デジタルえほんは、ただ座って読むだけにとどまらない。街の中へ繰り出して好きなシーンを切り取り、絵を書いたり加工したりして遊ぶという、実際の行動を必要とするアプリもある。ダンボールで作った鍋やフライパンにスマートフォンをはめ込み、おままごとを楽しむアプリなど、画面の外にあるモノと融合したデジタルえほんも次々に生まれている。
さらに、「誰もが作り手になれることも大きな特徴」だ。紙の絵本では製作するのに手間やコストがかかる。しかしデジタルえほんの場合、初心者でも簡単に作成できるプログラミングツールが提供されているため、自分の思い描く世界をアプリとして表現できる。利用することと作ること、2つの側面から創造性を培うことができるのだ。
今や子供も当然のようにデジタル機器を使う時代。だが一方で、現実世界でのさまざまな活動にも触れてほしいという思いもある。そこで現実と融合した近未来のデジタルえほんは、これからの知育にとって画期的な存在となるかもしれない。
(原科有里)