~創立100年でトップ10に 多様性の障壁を学問で克服~
「調和ある多様性の創造」 学問は世界共通の言語
現在の大学教育をめぐる改革の声には、特に産業界から即戦力の強化を求める意見が強いと感じる。ただし、大学として重要視しなくてはいけないことは物事の本質を見極める能力の育成だ。
現代にある問題は原因が複雑に絡み合っている。例えば感染症の問題も、予防医学一つの問題ではなく、そこには政治、経済、文化などさまざまな問題が絡んでいる。そのような問題を解決する時には一人の専門家だけで解決することはできず、違う領域を専門とするさまざまな人間が相互に関わらなくてはいけない。そのことを理解するべきだ。
求められる即戦力の一つとして英語があげられるだろう。確かに英語が流暢に話せることは大事だが、話す内容に中身がなければ実際に社会に出た時、リーダーにはなれない。逆に英語が多少拙くても話す内容に中身さえあれば周囲は耳を傾けてくれる。
そのために必要なのは自分自身の専門性を極め、明確な意見を持つ事だ。その上で色々な体験をし、違った角度から物事を観る必要がある。その意味で海外留学は大事なことの一つだ。多様な世界、多様な文化があるということを経験できる。
ただ一方で多様性は世界に障壁をもたらす。例えば宗教による争いは多様性がもたらすネガティブな側面だ。この障壁も克服しなくてはいけない。そのために学問がある。
学問はスポーツや芸術と同じように世界共通の言語だ。大学には宗教や言葉が違っても学問を介してさまざまな価値観を持った人たちが集まる。学問を介してコミュニケーションを取り、お互いを尊重する。「調和ある多様性の創造」と呼んでいるが、これが大学の21世紀における大きな役割だ。
10年後までにトップ30を 17年後に10位を目指す
適塾をルーツに持つ大阪大学は世界適塾として2031年にクアクアレリ・シモンズ(QS)世界大学ランキングでトップ10を目指している。現状QSでは55位だ。
ランキングのトップ10に入るには人文科学の世界への発信力を強める必要がある。人文科学はユニークな研究をしているのに10%ぐらいしか英語で論文を書かない。これを20、30%英語で書くだけでかなり違ってくる。取り組んでいる研究は充実しているのに、世界に発信しなければ社会への義務を果たす事は出来ない。意識改革を進めて人文系の研究内容を世界に発信していく必要がある。
「本質として大学の研究力、教育力が上がっていけばランキングは自然に上がっていくので気にする必要はない」という意見もある。その通りだが、ある意味で「負け惜しみ」だ。
日本だけで考えれば、大学への進学は偏差値で決まる面がある。だが世界規模で言えば留学生は大学ランキングを見てやってくる。よほどやりたいことがなければ、好んでランキングの低い大学には来ない。
ランキングを上げるためには受け身ではなく、広報戦略も大事だ。それぞれの大学ランキングは基準が違い、その基準は必ずしも明らかではない。純粋な大学の実力だけでなく評判によって左右されている部分がある。外国から見たとき、大阪は東京や京都に比べると知名度の点で不利だ。実力が100あるのに70しか評価されないのは放置できない。正当に評価されれば、ランキングは上がる。ランキングが上がれば、優秀な留学生が来る。これは大学にとっても学生にとってもいいことだ。
大阪の高校生はハーバード大学を知っているが、アメリカの高校生は大阪大学を知らない。アメリカの高校生が大阪大学と聞いてわかるような大学にしたい。そういう大学になりたいというのを表明する意味での世界トップ10だ。
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【大阪大学】
大阪大学の沿革は、1838 年に緒方洪庵が開いた「適塾」を源流とする。福澤諭吉、大村益次郎、長与専斎らの多くの塾生が明治期の日本の近代化に大きく貢献した。また、緒方洪庵の「人のため、世のため、道のため」という精神と適塾の自由闊達な気風は、1931 年に設立された大阪帝国大学を経て、今も脈々と受け継がれている。創立 100 周年には「世界適塾として、世界トップ10に入る研究型総合大学になる」という志を持って邁進していく。